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《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》
ネメシス
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そのダンションは、先のアップデートで実装された代物だった。

都市の地下に迷路状に設置されたそれは、核戦争で文明が滅びる以前に、非人道的な兵器やモンスターを製造していた研究所だったらしい。お馴染みの設定というやつだ。

実際、後ろめたい事があったのではと思える場所だった。培養液の入ったカプセルがずらっと並ぶその様は、いかにもと言った雰囲気をひしひしと伝えてくる。そこから血痕が目立つ白い廊下を抜けて、無骨なエレベーターでさらに下へ降りると、今度はとても広い空間に出た。最下層の実験所である。

これまでの雰囲気とは打って変わって、天然の岩が剥き出しになっている空間は、天井や奥の壁が霞んで見えるほどの広大さだ。簡易の司令塔と思われるビル群や、移動のための道路まで走っていることからして、真相は実験所というよりは地下都市に近いようだった。

現在、巨大すぎるそのスペースには、野放しにされた強力なモンスター達が闊歩していた。人工灯のうすら寒い光の中、異形の姿を晒す彼らは、さながら旧文明の負の遺産と言ったところか。

しかし、プレイヤー達にとってそれらは皆、自らを強化するための経験値でしかない。鍛え上げたステータスにものを言わせ、モンスターを屠っていく”作業”には、恐怖も畏怖も存在しないのは明らかだった。こうしている間にも、大型のモンスターが光線銃の集中砲火で地に沈む。

狩る者と、狩られる者。極めてシンプルな構造がここでは出来上がっていた。そして自分は常に狩る側であることを、メイソンは一度も疑ったことがなかった。

「呆気ねぇ、こんなもんかよ」

ダンションの一角、元はコントロール施設だったと推測されるコンクリの残骸の中で、一暴れし終えたメイソンはつまらなそうに言った。

バレット・オブ・バレッツ、通称《BOB》と呼ばれるプレイヤー同士の大会まであと3日。腕が鈍らないように仕掛けた対人戦闘だったが、油断しきっていた標的は歯ごたえがないことこの上なかった。

やれやれと溜め息をついて、手の中の《ウージープロ》をくるくると弄ぶ。その姿はいつもの真っ赤な装備に、黄昏色の結わえた長髪と変わりなかったが、彼の二つ名の由来ともなった道化師の仮面だけが不在だった。

滅多に晒されない素顔は、美形と言って差し支えないものである。肉食獣を連想させる、シャープな顔立ちに似合いのつり上がった目。エメラルドグリーンに輝くそれは好戦的な光を宿している。薄い色の唇には、大抵の場合、冷笑か嘲笑が浮かんでいた。

青白い頬と目の回りに施されたペイントは、彼なりの自己主張の結果だろう。瞳を貫いて縦に走る傷跡らしきラインは、ピエロを模したものだと想像がつく。

「てめぇ、メイソン……! 引退したんじゃなかったのかよ」


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