第一章
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執事の言葉に今度は険しい顔になった。
「母親がいないとはどういうことだ」
「残念なことに産後のひだちが悪く」
この時代ではこれもまたよくあることだった。出産は母親にとって命懸けであった。長い間これは変わることがなかったのだ。
「それで」
「そうだったのか。それでは」
「弟様は身寄りがおられません」
執事はこう彼に答えてきた。
「今は。誰も」
「そうか。同じだな」
ウィリアムはここで己のことにも重ね合わせたのだった。
「私と。同じだな」
「確かにそうなります」
「親に先立たれた」
しかも父親は同じである。このことが話とウィリアムの感情をかなり複雑なものにさせていたがそれでもこう思うのであった。
「私と同じか。しかも」
「弟様です」
「私は一人になった」
ウィリアムはここで言った。
「しかしだ。その弟も一人だな」
「そうでございます」
「一人と一人だ」
ウィリアムはまた言った。
「それを合わせれば」
「合わせれば」
「二人だ」
それが彼の答えであった。二人が、である。
「二人だな。よし」
「どうされますか?」
「弟をこの屋敷に呼ぶのだ」
こう執事に告げた。
「すぐにな。いいな」
「宜しいのですね」
「構わない。そしてだ」
彼はさらに言う。
「私の弟だ。弟として育てる」
「弟様としてですか」
「他に何がある?」
今執事に問うたのには理由がある。貴族の私生児は多かったがそういった子の殆どは使用人として使われることが多かったからだ。少なくとも家督相続権というものはなかった。
「私の弟だ。間違いなくな」
「左様ですか」
「そうして育てるのだ。いいな」
「わかりました。それでは」
「そして言っておく」
ウィリアムの言葉がきついものになった。
「これは守っておくように」
「何でしょうか」
「あくまで私の弟だ」
このことを強調するのであった。
「私のな。生まれがどうとか言う者がいたならば」
「その場合は」
「私が許さん」
言葉がさらにきついものになっていた。
「決してだ。それは忘れるな」
「必ず。家の者達にもそれは伝えておきます」
「そう、家の者達全てに伝えておけ」
「このことをですね」
「それだけではない」
彼はなおも言うのであった。やはり言葉がきつい。
「若しこのことに僅かでも不満があるならば」
「その場合は」
「暇を出す。即刻な」
「即刻ですか」
「そうだ。このことは特に強く伝えておくようにな」
こうまで言うのだった。
「わかったな」
「はい。それでは」
「ではすぐに弟を迎えてくれ」
声は普段のものに戻り執事に告げるのであった。
「迎えの用意だ。これから忙しくなるぞ」
「はい」
こうして彼は弟を
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