決戦3
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る手からは出血が見られる。それでも真っ直ぐに構えて、動かぬ様子にアレスは頬をひきつらせた。
化け物か。
アレスよりも遥かに年少のはずの少年は、しかし、歴戦の戦士のようだ。
「撃ち続けろ」
バセットの号令に、兵士達が再び銃撃を開始する。
キルヒアイスは一度こちらを睨みつけ、背後に駆けだした。
プラズマ手榴弾と、こちらの一斉射撃の前に失敗を認識したのだろう。
無駄に攻撃を仕掛け、出血する事なく、即座に撤退を選択する。
「判断力も一流だな」
末恐ろしい――小さく息を吐いて、アレスはその背を追い続ける。
「追撃しますか?」
「いや。それよりも……」
バセットの問いかけに首を振って、アレスは塹壕内に視線を向ける。
丸く、雪がくり抜かれたそこに兵士達が集まっている。
「少尉――手当をします」
「俺は大丈夫だ」
差し出された白い布を受け取って、痛む左顔面に当てる。
白い布が血に染まっていくのが見えた。
それでも見えたという事は、眼球は傷ついていないようだと思う。
兵士に銃を預けながら近づけば、集まっていた兵士達が道を開けた。
横たわるカッセルの傍に立つのは、衛生兵の姿だ。
こちらの顔を見れば、ゆっくりと首を振った。
+ + +
それは一目で助からないと分かる。
至近距離からのプラズマの熱を受けて、融解した防御服が身体に張り付いている。
顔の部品すらも一部がバターのように溶けてしまっていた。
それでもうっすらと開いた左目が、こちらを見て、安堵の表情を浮かべた。
「御無……事でしたか」
放たれた言葉は、随分とか細く――ともすれば戦場の騒音で消えそうなほどに小さい。
横たわるカッセルの隣に座って、アレスは言葉に迷う。
ありがとう。
良くやった。
悪かった。
様々な言葉が浮かんでは、口に出る前に消えて、同時に残された時間は少なくなる。
顔を覗き込んで、呟いた。
「無事に退職を迎えるのじゃなかったのか、爺さん」
呟かれた言葉に驚きの視線が、アレスに集中した。
何を言っていると言葉になる前に、横たわるカッセルから小さな声が聞こえた。
笑いだ。
苦くも――誇らしげな笑い声に、誰もが言葉を失う。
「厳しいですな。ですが……」
僅かに言葉をきって、カッセルの双眸は穏やかにアレスを見る。
「昔の夢は――忘れたつもりで、忘れきれなかったようです」
それは周囲にいた誰もが理解できない言葉。
だが、理解して、アレスは眉根に力を込めた。
「死ぬのは英雄とは言わない。バカって言うんだ」
「知りませんでしたか。英雄と馬鹿は実に――実に紙一重なのですぞ?」
「本当に馬鹿野郎……だな」
唇を
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