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妾の子
第五章
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とか必死に隠して応えるのだった。それだけの勇気があって来ているのであろう。
「それで。こちらに」
「この娘を貴方の奥方にというわけですか」
「駄目でしょうか」
「あの」
 ここで。そのカヨが戸惑い顔を青くさせながら口を開いてきた。そして話すのであった。
「私はセツさんの娘ではないのですが」
「むっ!?」
 今のカヨの言葉に小野田はまず目を瞠ってきた。
「カヨさん、といいますと」
「私の名前は御存知なのですね」
「ええ、勿論です」
 毅然としてカヨに答えるのだった。
「女学校に通っておられた時から」
「その時からでしたか」
「お噂はかねがね聞いていました」
 微笑んで彼女に告げる。
「その御気性も。今のお茶の淹れ方一つを取っても」
「お茶は」
「いえ、御見事です」
 カヨに対して述べるのであった。
「こうしたことまで御聞きしていましたが。噂ではありませんでした」
「この娘はいい娘です」
 セツが言い出せないでいるカヨに代わって答えた。
「お茶だけでなくお花も家事も全てできます」
「そうですね。本当に素晴らしい」
「それでこの娘のことですね」
「はい」
 また答える小野田であった。
「ですからカヨさんを。娘さんを」
「私はできません」
 またカヨが言ってきた。真っ青な顔で。
「どうしてですか」
「何故なら。私は」
「私は?」
「セツさんの娘ではなく。妾の子なのですから」
 このことを小野田に言うのだった。結婚を言われたがそれでもこのことを隠せなかったのだ。どうしても隠すことのできない生真面目な性分だったのだ。

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