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TAC-AN!
これから!
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帰って来ることは滅多にありません。現に、私が父と会ったのも、春の長期休暇中に行った海外旅行の時以来なのです。
「ところで、そんな浮かない顔をしてどうした、紬。学校で何かあったのか」
「いえ、そういうわけではないのですけれど…」
 私は事情を話すか否か躊躇(ためら)いました。お父様のことですから、事情の一部始終を話せばきっと別荘を用意してくれるでしょう。でも、それではダメなんです。そんな「普通」でない方法では意味がないんです。
 私は物心ついた時からずっと「普通」ではありませんでした。
 どこへ行くにもお付きの人が一緒で、幼稚園や学校の登下校は毎日車でした。
 小さい頃に気付くことはありませんでしたが、年を重ね、一部の心無い人達から嫌がらせを受けるようになって初めて自分が「普通」ではないということに気付かされました。
 そして、何時しか思うようになったのです。「普通」でありたい、と。「普通」でなくてはならない、と。「普通」でなければ、皆から爪弾(つまはじ)きにされてしまう、と。
 それは軽音部の皆にも言えること。今は物珍しさから何も言わないでいてくれているけれど、これから先、私が「普通」でないことを見せ続ければ、彼女達もこれまでと同じようにきっと私から離れていく。
 だから、私は「普通」でありたい。
 だから、私は「普通」でなくてはならない。

 ――でも、それでいいの?

 「普通」ではないからと言って、一般の価値観から大きく逸脱(いつだつ)するからと言って、困っている友達を見捨てるような真似をすることが、私の追い求めていた「普通」なの? それとも、そんな希薄な関係をあの子達に、軽音部に求めていたの?
 違う。私が軽音部に入ったのは、あの娘達と音楽をやろうと思ったのは、「普通」になりたかったからでも、上辺だけの淡泊な関係を築きたかったからでもない。
 あの子達になら、私の「普通」でない部分を見せられると思ったから。あの子達となら、今まで築くことのできなかった深い関係になれると思ったから。
 それが分かっているのなら、私のとるべき行動は一つ。
「あの、お父様――」



 数日後――
 童話の「ウサギとカメ」をモチーフとした手摺を(よう)する階段を上り、その先にある音楽室のドアを押し開きます。
 私以外の三人はもう既に来ていて、何時ものように何でもないようなことをああでもないこうでもないと話していました。
「あ、ムギ。どうだった?」
 私の入室に気付いた澪ちゃんの問いに、私は笑顔で頷きます。すると、音楽室に三人分の歓声が木霊(こだま)しました。
「ねえねえ、ムギちゃん。その別荘ってどんなとこなの?」
「小さいけれど、海のそばにあってとても快適なところよ」
「おぉ〜!じゃあ、水着持っていかなきゃな」

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