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妾の子
第一章
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もそれは知っていた。だが自分の夫がそうだったとは流石に夢にも思わなかったのである。
「その女中を」
「どうやらその様で」
「もう十五年近く前に」
「十五年・・・・・・」
 その年数を聞いてあらためて絶句するセツであった。
「それだけ前から」
「そうです、本当に私達は知りませんでした」
「ですが本当のことです」
 ここでまた彼等はセツに対して言うのであった。自分達が知らなかったということを。つまり意地悪い見方をすれば自分達は無罪であると彼等は言っているのだ。夫が妾を持っていることに。
「それでですね」
「御主人とその方の間には」
「まさか」
 今の言葉からさらに不吉なものを感じていた。
「あの人はまさかその女の人との間に」
「はい、そうです」
「その通りです」
 セツが最も聞きたくない返答であった。だがそれが出されたのであった。内心でこれまでにない驚きを隠すので必死であった。
「女の子です」
「もう十歳です」 
 年齢もまた告げられたのであった。
「十歳ですか」
「ええ、そうなります」
「私達も驚きました。まさかその様な娘さんまでおられるとは」
「今も信じられませんが」
 セツはその娘の歳を言われてもまだ信じられないといった顔であった。不可思議な話を聞いて戸惑っているような、そんな顔でいるのであった。
「あの人に。そんな」8
「ですが真実ですので」
「それでです」
 夫の同僚達はここで話を変えてきた。
「その娘ですが」
「母親も亡くなりまして」
「火事でですね」
「ええ、そうです」
「不憫なことに」
 セツも話を聞いて不憫だとは思った。しかしそれは自分が関わりないならばであった。今はどうも複雑な気持ちであった。何故なら彼女も知らないところで夫がもうけた娘だったからだ。
「保護する人がいませんので」
「どうするべきか」
「どうするべきかといいますと」
「娘さんの名前はカヨといいます」
「カヨですか」
「はい、そういうのです」
 名前もまたわかったのだった。カヨというその名前もまたわかったのだった。
「そのカヨちゃんは」
「最早身寄りもなく」
「このままでは」  
 彼等は話を続ける。まるで答えをセツに求めているかのようだった。セツも彼等が何を言いたいのかおおよそ察しがついていた。しかし答えることはできなかったのだ。
「私に言われましても」
「ですが奥様」
「その娘は。もう身寄りが」
「その女中さんでしたね」
 夫の愛人だったというその女について言及した。
「その方がおられるのではないのですか。誰か親族が」
 そちらに引き取ってもらいたいというのだ。しかしであった。夫の同僚達はそれについては完全に否定してしまったのだ。
「それがですね」
「その人にも身寄り
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