さらば我が家、ようこそ、ゴリラ女
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うしなくてはならない理由があったからだ。
「なるほど、子供とはいえ城島家の血を引いている、か」
「ちょっと、お姉さんどうして僕たちの家に火をつけたのか教えてよ」
証拠など何もない。ただ本能的に冥星は目の前の強敵に対して牙を向けた。大人と子供、力の差は歴然。例え女であってもその体格差は倍以上だ。しかもこの女、かなりデカい。
直感的に冥星は自らの天敵と出会ったことを悟る。こやつは決して救世主などではない。悪魔の類だ。どうやら己は完全に星から見放されているようだ。ああ、こんなことならあの時昼寝をしておくべきだったか。しかし妹にせがまれ、屋敷を抜け出したからこそ、自分の命は救われたのだ。この抗いがたい倦怠感に襲われつつ、冥星は自らの運命を嘆く。
「……こい、これから私がお前たちの親だ。お母さんと呼べ」
「……は?」
女は顔色一つ変えないまま、冥星の前に歩み寄った。不思議と恐怖はなかった。あるのはただ、理不尽なまでに翻弄される我が人生の嘆きのみ。
「オカー、サン?」
「そうだ、海星。さぁ、その汚らしい鼻水を、兄の服で拭うのだ」
「うん、ごしごし」
「ごしごしって、ちょっと海星、うわぁすっごい……」
さっそくまともな衣服をなくしてしまった冥星を横目に、巨大な女は海星の手をしっかりと握る。女の手は、指先が長く、ほっそりとしていたが、凄惨たる傷跡の数々が歴戦の戦士を想像させる。
「さぁ冥星、お前はどうする? ここで朽ち果てるか、それとも私をお母さんと呼ぶか、選ぶがいい」
「マイ、マム。残念ながら、僕たちは母親という物を知らなくてね。どういった存在なんだい?」
「お母さんと呼べ。そうだな、一言でいうなら、愛の化身だ。お前たちに愛を教えるのが、私の成すべきことだ」
「マイ、マザー。愛とはまた、抽象的だね」
「そうか? ならば初めにお前に教えてやろう、これが私の愛だ――お母さんと呼べと言っているだろうが!!!」
ああ、愛とは何たる甘美な響きであろうか。その言葉とは裏腹に自らに降りかかる悲劇的な展開を冥星は把握できずにいた。
家が燃えた。燃やした奴の仲間に拾われ、お母さんと呼べと強制され、愛を教えてやると拳骨を脳天に直撃。
神様、これは試練でしょうか? 今までダラダラと過ごしてきたツケなのでしょうか? ですが、私はまだ一一歳の洟垂れ小僧であり、普通なら、仲間とカードゲームをしたり、万引きをしたり、非行に走り、少年院にぶち込まれてもいい年頃なのです。
神様、これはあんまりではないですか? 豚箱にぶち込まれてもいいのです、悪の秘密結社に拉致られて身代金を渡せと脅されてもいい。金ならいくらでもあります。あ、全部燃えてしまったか。
ですが、神様、私は二度と、あの拳骨を食らいたくありません。愛なんて、く
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