交錯するは向ける想いか
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幕内の誰しもが呆気にとられた。遅れて、明命が口に手を当て、顔を紅くして笑いを堪え始める。
余りの恥ずかしさから亞莎は服の袖で顔の半分を隠すが、どうか笑うまいと苦戦する明命を恨めしそうに睨めつけた。
「はぁ……明命、笑っちゃダメよ。あなたの見解を聞かせて頂戴、亞莎」
一つ嗜めてから話を振ると、亞莎はまだ恥ずかしいのか服の袖を上げたままおずおずと語り始める。
「その……先の初戦でも張飛が伏兵として現れたと聞いてます。敵が連続で同じような事をするのか、それともしないのかはまだ判断し兼ねます。此度の相手の兵数はこちらよりも少ない一万五千。総兵数にしても我らと袁術軍には負けていますので警戒するに越した事はないかと」
言われて僅かに、思春と明命の表情が曇る。
兵数でも将の数でも多いというのに、軍師すらいない敵に対して少し弱気では無いのか、というように。
その空気を読み取ったのか亞莎は二人にきつい目を向け、静かに会話の主導権はまだ私にあると伝える。
「もし、万が一、という場合まで読み切らなければいけません。我らの目的は確かに勝利では無いですが、圧倒的な負けでも不可。出来る限り戦線を維持し、袁術軍から補充された兵の被害を増やし、時機を見て退却に足る兵数を失わなければいけません」
亞莎は真剣な表情で、話の最後にゆっくりと蓮華へと目線を移した。心配の色を目一杯に浮かべて。
彼女達が勝利してしまえば、思春と明命という不可欠な人材が後々まで戦場に縛り付けられたままとなり計画に支障を来してしまう。
圧倒的な敗北をさせられては、孫呉の風評も下がり、蓮華という次世代の王への期待も地の底まで落ちる。孫策という戦姫が姉、その期待はそれほど重い。いくら治世を長く続けられる能力が高くとも、乱世では力が必要とされている為に。
その二つは既に蓮華も理解している。だが……『兵を失わせる』という言葉は蓮華の心に重く圧し掛かり、表情を悲哀に堕ち込ませ、顔を少し下げさせた。
知っていながら利用して失わせる。戦を行った結果の犠牲では無く、自分達が望むモノを手に入れる為にわざと切り捨てる命。その重荷を背負う事は彼女にとって初めてであった。
例えば覇王であれば、表情を一つとして変えずにそれが最善ならばと躊躇いなく切り捨てる事を命じるだろう。散って行く命に先の世の平穏を約束しながら。
小覇王ならば、悲哀の目を携えて、きつい口調で我らが大望の為に戦わせよと命じるだろう。己が家族の長きに渡る繁栄を必ず勝ち取るからと無言で詫びながら。
黒麒麟ならば、少しだけ目を瞑り、感情の綯い交ぜになった瞳を向けてからそれを行えと命じるだろう。そのようなモノを出さない世を作ってみせると心を砕きながら。
対して蓮華は……苦虫を噛み潰すように歯をギシリと噛
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