第一話 赤い転校生その五
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「あたしがこっちに来る時も笑顔で送り出してくれたよ」
「それは何よりね」
「確かに親父もお袋も何処の誰かは知らないけれどさ」
「寂しくないのね」
「ないね、少なくとも今はね」
本当にだ、明るいというのだ。
「本当にさ、じゃあこれから宜しくな」
「うん、最初は怖いって思ったけれどね」
「明るいしね」
「じゃあこれからね」
「宜しくね」
皆薊に笑顔で応える、皆彼女が思ったより怖くなくしかも案外気さくで陽気なのでほっとした、そして授業になっても。
薊は普通だった、特に問題なく授業を受けた。隣の席の女の子が転校初日なのでまだ教科書を持っていないだろうと思って一緒に見ようかというと。
「ああ、もう貰ったから」
「そうなの」
「こっちに来る時に院長先生がくれたんだよ」
言いながら教科書を出す、それはこの学園の普通科で使われているまさにそのその教科書であった。
「ノートもあるしさ」
「それじゃあ」
「ああ、気を使ってくれて悪いな」
ここでも明るい笑顔で言うのだった。
「大丈夫だよ」
「そうなのね」
「学問は好きじゃないけれどさ」
学校の勉強をこう言うのだった。
「それでも持ってるものは持ってるからな」
「そうなのね、じゃあ」
「ああ、気兼ねなくな」
「わかったわ」
普通の授業はごく普通だった、授業態度も特に問題はない。そして自信があると言った体育の授業では。
あっという間だった、白い上着に赤い半ズボン姿の薊が。
物凄い速さで駆けて皆を追い抜く、ハードル走だがそのハードルも次々と勢いよく飛び越えていく。
それを見てだ、皆目を見張って言った。
「いや、言っただけはあるわね」
「本当に凄いわね」
「というかどれだけ俊敏なのよ」
「ジャンプ力もあるし」
「動きも的確だし」
「だから。運動神経はね」
それはとだ、走り終えた薊が皆に笑顔で話す。額の汗をその右手で拭き取りながらにこりとして話したのである。
「自信があるのよ」
「尋常なものじゃないわね」
「陸上部でもいけるんじゃない?」
「そっちも」
「こういうの好きだから」
言いながらだ、今度はだった。
傍にあったソフトボールを見て隣のグラウンドでソフトボールをしている男子に問うた、八条学園高等部のグラウンドは二つ並んでいる。片方が野球、もう片方がラグビーが出来る様に造られているのも特色だ。
その男子の方にだ、こう問うたのである。
「そっち投げていい?」
「いいけれどさ」
まずはこの返事からだった、声が遠い。
「こっちまで結構以上に距離あるぜ」
「九十メートルはさ」
「ソフトボールを投げて届く距離じゃないぜ」
「それでも投げるのかい?」
「大丈夫だよ」
薊は男子の声に笑顔で応えてだ、そしてだっ
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