微笑みのホワイトデー
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その女はあなたの高校と大学の同級生でしたね。でも、その女には友人らしい友人が殆どいなかったそうなんです。たまに男と一緒にいるのを目撃されているので、彼が唯一の友人なり恋人だとみんなは思っていたそうです。
その女は、やはりというか、あなたのことを恨んでいるんじゃないかってみんな思ってました。あなたが持っている全てが、その女には妬ましかった。その女のことを聞く度、その女が皆に避けられていることを感じます。もう、可哀想になる程に。
ですが、過剰とも思える程嫌われていようと、あなたを脅かす存在であることには変わりません。私は、行動を起こしました。
私は喋りに喋って疲れた喉を潤す為にぬるくなったミルクティーを飲みました。
ここは喫茶店。強い風が時々吹いてなんだかピリピリしてる外に反し、その喫茶店の中は暖かい暖房と落ち着いた音楽に満たされていて、時間の流れもなんだかゆったりしています。
私がここに来たのは初めてですけど、なんだかここを気に入りました。いつもちょっと及ばない私を優しく包んでくれるような、そんな優しい空気を感じます。この空気だったら、『自分の本当の敵は自分』なんていう胡散臭い台詞も耳に残りそうです。
ごちそうさま。私はそう言って立ち上がりました。すると目の前にいる男がにっこり微笑みました。
この喫茶店のことを教えてくれたのはこの男です。でも、ここに来るのは随分と久し振りなんだそうです。勿体無い。こんないい所知ってたら、毎日通ってもおかしくないのに。
私は男が会計を済ませるのを見ると、出口の扉の隣に立ちました。男が扉を開けると、私は外に出ました。
「寒っ!」
私は外に出るなりそう言いました。
昼だというのに、さっきまでの喫茶店の温もりを冷たい風が容赦無く奪ってきます。こんなに寒い日に喫茶店に誘ってきたこの男はやっぱり変わり者だと改めて思いました。それを示す様に、周りに人が見当たりません。
そんなことを思いながら歩いていると、ふと鼻に冷たい物が落ちました。雨だ。私がそう気づいたのを皮切りにしたかのように、ポツポツと雨がコンクリートを叩く音がしました。
「傘無い?」
私は男に尋ねました。男は持っていた荷物を漁りだしました。今になって漁るということは、傘は絶望的でしょう。
その時、男の荷物から何かがポロっと落ちました。
なんだろう。そう思って拾おうとした私の手が止まりました。
それは包丁でした。コンクリートの道に似合わない金属光沢を放っています。
男はそれを見て、まるでティッシュでも落としたようにあっさりと荷物の中に収めました。
私はその光景からいち早く目を逸らしました。すると目の前に、あの女がいました。憎くて憎くて仕方無いあの女が。
男はあの女を見かけると、飼い主を見つけた忠犬の
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