第一章
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第一章
小さい秋
「あっ、尚人君」
「どうしたの、相子ちゃん」
山森尚人は一緒に遊んでいる滝相子の言葉に顔を向けた。二人はまだ小学三年でやっと色々なものがわかりだした年頃だ。その二人は今外で遊んでいる。
山の中で二人で遊んでいる。山の木々はもう赤くなり葉がはらはらと落ちている。二人はその中でどんぐりを拾って遊んでいるのである。
「見て、あれ」
「あれって?」
「ほら、あれよ」
こう言って向こう側を指差すのだった。
「あそこにほら。聞こえない?」
「えっ!?」
「鳥の声よ」
また尚人に対して言う。
「あの声。何の声かしら」
「あれは。多分」
尚人は相子の言葉に答えて言うのだった。一歩踏み出すとそれだけで落葉を踏んでします。それと一緒にかさ、という葉っぱの崩れる小さな音がする。
「もずの声だよ」
「もずの?」
「うん、もずの声だね」
耳を澄まして相子に答える。
「あれはね」
「そうなの。あれがもずの鳴く声なの」
「お母さんに教えてもらったんだ。もずは秋に鳴くんだってね」
「そうだったの。もずは秋にね」
「僕もはじめて聞いたよ」
微笑んで相子に言う。
「もずの声なんて。本当に」
「私も。何か蝉の声と違って静かね」
「そうだよね。夏になんかもう」
尚人はここで秋のことを思い出した。夏にはこの山は蝉でとても五月蝿かった。蛇もいたし木を少し蹴ればそれで虫が一杯落ちてきた。けれど今はそんな虫はいない。いるのは山から少し出た草はらで鳴いている虫達だ。あとはバッタだ。そういった虫達だけがいる。
「蝉もいたのに」
「今はいないわね」
「そうだよね。何か本当に静かだよね」
このことを二人で言い合う。
「そうだ」
そして相子は何かを思いついたようだった。
「ねえ尚人君」
「どうしたの?」
「鬼ごっこしない?」
こう彼に提案してきたのだ。
「鬼ごっこ。目隠ししてね」
「目隠し鬼?」
「うん。静かになったし」
笑顔で彼に言うのだった。
「どうかしら、それは」
「そうだね。いいね」
尚人も相子のその提案に頷いた。もずの声を聞きながら。それはやはり遠くから聞こえてくる。その静かな声にも誘われてもいた。
「今は静かだし。それじゃあ」
「うん。鬼は最初はどっちなの?」
「僕がしようか?」
尚人の方から提案してきた。
「最初は。それでいい?」
「うん、いいわよ」
笑顔で尚人の言葉に頷く相子だった。
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