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嘆き
第六章
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十兵衛にはわかっていた。だからこそ今両目を出しているのであった。
「ただ剣を振るう時は片目でもよし」
 彼はまた言う。
「しかし悪しき心は右目で見るもの。その右目に見えるものを今」
 振り被る。その両目に見えるものに対して剣を向けてさらに。
 一閃させた。法善の前を斬った。彼は斬らなかったがそれでもだった。一閃させた剣は確かに斬った。目の前を剣が一閃したのを見届けた彼の赤い目は少しずつ穏やかな光を取り戻していき遂には。静かに前へと倒れていき動かなくなったのだった。
「法善殿」
 十兵衛はその動かなくなった法善を見つつ声をかけた。もう彼が動かなくなってしまったことは承知していたがそれでも声をかけたのだった。
「そのまま休まれよ。静かに」
 声をかけ終わると眼帯を取り出してきた。そしてそれを右目にかけ終え静かにその場を後にした。そのまま江戸に戻り家光のところに参上したのであった。
「まずは終わり申した」
「うむ」
 家光は礼をする十兵衛をにこやかな笑顔で迎えていた。
「御苦労であったな」
「はい。法善殿ですが」
「静かに眠ったそうだな」
「如何にも」
 はっきりとした声で家光にこのことを伝えたのであった。

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