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嘆き
第五章
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「惜しい。惜しいのじゃ」
「惜しいのでござるか」
「わかるか?十兵衛殿」
 十兵衛に対して問うてきた。
「この悲しみが。法宝をなくした悲しみが」
「わかるつもりでござるが」
「どうして死んだのじゃ」
 赤い目から涙を流していた。しかもそれは血の涙であった。それをとめどめもなく流し続けているのだった。まさに妄執に捉われたになり果てていた。
「どうして。ここで」
「ですが法善殿」
 ここで十兵衛はあえて冷静に法善に声をかけてきた。
「それもまた運命だと」
「運命じゃと」
「左様」
 静かに法善に対して延べ続ける。
「ですから。それは忘れられて」
「わかっておらんのじゃ」
 法善はすぐにそれを否定したのだった。竹の様に細くなってしまった首を横に振って。
「御主には拙僧のこの無念さが」
「法善殿」
 十兵衛は厳かな言葉を出してきた。
「貴方は立派な僧であります」
「拙僧はそれは」
「断ち切られよ」
 また法善に対して述べた。
「是非共な」
「是非共じゃと」
「そうです。それもまた僧の道」
 彼は言う。
「ですからここは」
「できるものか」
 十兵衛を睨み据えての言葉になっていた。
「御主に何がわかる!?」
 そしてまた言ってきた。
「御主に。拙僧のこの悲しみが」
「わかり申さん」
 これについては言い切った。
「それは認めるでござる」
「では去るのじゃ」
 赤い目で語った。
「拙僧の前からな」
「わかり申さんがそれでもでござる」
 十兵衛の目もまた光った。その左目が。

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