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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第84話 あなたを……愛している
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 中天には蒼い偽りの女神が、彼女に相応しい玲瓏なる(かんばせ)を地上に魅せ、
 向かって正面右側……遙か西の海上には紅き女神が朧なる光芒を纏い、今まさに沈み行こうとしている。

 遙か下方には人の営みの証、煌びやかな街の明かり。足場のない宙空にただ浮かぶだけの俺と彼女。

 その瞬間、彼女の差し出した手の平に、蒼穹からの白き使者がそっと舞い降り……。
 そして、儚く消えて仕舞う。
 儚く揺れる彼女の髪の毛、そして、懐かしい思い出を喚起させる甘い肌の香り。

 俺は……。



「……起きて」

 落ち着いた彼女の声が耳元で響き、ゆっくりと揺り動かされる俺。
 この声は……。

「……朝」

 未だ、微妙な声の違いからふたりの内のどちらかを聞き取れるほど意識が覚醒していない状態の俺。
 そもそも、冬に成ってからのリュティスの朝は遅い。昨日の日の出は午前八時半過ぎ。
 そして、日の入りに関しては、午後の五時前には完全に陽が落ちて仕舞う状況。
 まして、最低気温は二、三度。最高気温も、この一週間の間に十度を超えた日がない、と言う程の天然の冷蔵庫状態。

 こんな時は布団から出たくなくなるのが人情と言う物でしょう。

「……早く起きて」

 未だ毛布を抱きしめ、右側を下にした状態で眠り続ける俺。
 そんな、普段通り異常に寝起きの悪い俺を再び揺り動かす彼女。無理矢理布団をはぎ取られる訳でもなければ、耳元でがなり立てられる訳でもない。

 流石にこれ以上、幼子のような我が儘は問題が有りますか。

 一度、強く目蓋を閉じ、身体の各部に力を籠める。
 そして、仰向けに成りながら両手の手の平で目をゴシゴシと擦り……。

「ゆ…………。おはようさん、湖の乙女」

 俺の事を覗き込む精緻な美貌に話し掛けた。
 その瞬間、普段の彼女とは何かが違う複雑な……。いや、こう言うと普段の彼女が発する雰囲気が単調なソレのような表現に成りますか。
 普段とは違う、何か強い想いのような気を発した後、メガネ越しのやや強い瞳で俺を見つめる彼女。

 ゆっくりと過ぎて行く時間。二人の丁度中心辺りで絡み合う視線。
 何かを発しようとする彼女のくちびる。揺れる瞳。そして、緊張からなのか、普段よりも僅かに冷たい冬の大気と同じ温度の指先が、俺の頬に触れる。
 ただ、起き抜けの俺に取ってその冷たい指先は、何故か妙な心地良さを感じさせていた。

 しかし……。

 しかし、頬に触れた彼女の指先が俺の頬と同じ温度に暖められた頃、僅かに首を横に振る湖の乙女。その瞬間に彼女が発して居たのは明らかな落胆。
 そして、一度瞬きをした後には、先ほどの妙に揺れる瞳も、物言いたげなくちびるもなく、普段通りの彼女が其処に居たの
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