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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第84話 あなたを……愛している
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む形で果たされる事はなかった。

 彼女の望みは、前世の俺が生きて帰って来る事。しかし、彼女の元に帰って来たのは、昔の事など一切、覚えていない……。現実的に言えば、まったく別人の俺。
 例え、前世の約束通り、転生の際に再び彼女と巡り合う事を俺が選んだのだとしても、その部分の記憶がなければ、まったくの偶然で出会ったのと変わらない状況。

 確かに、この状況ならば、約束を果たせなかったと言われても仕方が有りませんか。
 更に、今回の状況にも繋がる可能性も有りますから。

 自らの事を顧みて、やや自嘲的にそう考える俺。

 そう。どうせ、根拠のない自信に因る甘い見通しで危険な事件に首を突っ込んだ挙句に、命を落としたのでしょうから。
 前世の俺が何をしていたのかは知りませんが、水の精霊王と契約……友誼に基づいた契約を交わす人間が、平穏無事な生命を送ったとは思えません。
 それに今生の俺も、タバサに同じような趣旨で釘を刺されましたから。

 しかし……。

「ケツに帆かけてトンズラをコクには、現在の状況。……この世界の裏でクトゥルフの邪神どもが暗躍している可能性が有る事を知り過ぎて仕舞った」

 仁を貴び、己が信じる善を為せ。この戒律が有る以上、一歩間違うと世界すら滅びかねない状況を見て見ぬ振りは出来ません。
 自分の信じる正しいと思う事を全力で為す事が、俺の学んだ洞の仙術。これを為さなければ、俺は俺の学んだ仙術を行使出来なく成りますから。

 それに、俺自身がそれを良しとしないのも大きな理由のひとつですし。

 俺の答えを聞き、矢張り微かな陰の気を放ちながらも、しかし、動いたかどうか判断に苦しむ程度に首を上下に動かす湖の乙女。
 ただ、俺の答えを完全に予測して居たが故に、最初はその問い。俺をここ、ガリアから離れさせようとする言葉を発しなかったのですから、彼女の発して居る陰の気はさほど大きな物では有りませんでした。
 そして、より強く感じるようになったのは覚悟。

 まして、その覚悟の理由もはっきりしましたし。
 タバサ、そして、湖の乙女。このふたりの覚悟の最大の理由は、前世で俺が先に旅立って仕舞ったから。
 前世の轍を踏まない為に。踏ませない為に俺に楔を打ち、自らは常に俺の傍らに居て危険に対処する。

 これが、現在の俺にだけ向けられた物ならば、男として多少面映ゆいものながらも悪い気はしないのですが、ふたりの視線は俺の後ろに重なって立つ前世の俺の姿が有るはずですから……。

 ただ、嫉妬はみっともないですし、それに、何時までもベッドの上に居る訳にも行きませんか。
 そう少しだけ前向きに考え、足に掛けたままの布団を上げ、ベッドの横に置いて有るスリッパに足を降ろす。
 その俺の姿を身じろぎひとつせず、
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