第六話
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びっくりして硬直していると、温かな眼差しとともに甘く澄み通った優しい声が掛かる。
「式森様の苦しみや悲しみ、痛みを分かち合えないことにもどかしさを感じます。不快でなければこうさせて下さいませ。せめて、僅かなりとも、式森様のお心が静まるまでの間……」
ガスマスク越しに感じるどこまでも優しい手つき。我が子に、あるいは恋人にするかのような心が籠った手つき。
心から俺を想っての行動だと、何故かわかった。
柔らかな愛情に心が染み渡るような錯覚。
深い安心感に心が包まれ、それを拒むことなく委ねた。
時間にして五分。しかし、十分にも一時間にも長く感じた。
「リーラ……」
「はい」
喉元にある変声期のスイッチを切る。
――この気持ちだけは、変声器でなく生の声で届けたい。
「ありがとう」
リーラは一瞬目を大きく見開くも、すぐにいつもの冷静な顔に戻った。
いつもより優しい目をしながら。
「……はい」
声はその心を雄弁に物語っていた。
† † †
あれから城の中枢である司令部に案内された俺は水銀旅団の戦力と迎撃作戦を説明された。
連中の目的は誓約日である。しかし誓約日がいつかはトップシークレットに該当するため向こうは把握していないだろう。
水銀旅団はここのメイドたちより多くの人員がいるようだが、質はその分メイドの方が高い。しかもマレーシアとシンガポールから援軍を要請している。誓約日まで防衛準備を整え、誓約さえ済ませてしまえば、連中の攻撃は意味を成さないとのことだ。
そう上手くいくかな? というのが正直なところ。
情報なんぞどこから漏れるかわからないし、万事物事がうまくいくことなど早々あるものではない。
まあ、俺自身まだ迷いがあるため何とも言えないけれど……。
そして、明日が誓約日。話によると二十時に行われるらしい。
今現在の俺の心境は若干受け入れてもいいかなと思いつつある。もともと女の子には興味があるし、この二日でメイドもいいかもと思えてきた。
しかし、それとは別に彼女たちを受け入れてもいいかなと思った理由としては、俺を見る目である。
メイドさんたちの主である爺さんへ向ける目とまったく同等の、もしくはそれ以上の眼差しを向けてくるのだ。
そこに篭められた感情は愛情と親愛。親しい人へ向ける情愛である。
知り合ってまだ間もない上に、向こうは俺の素顔を知らないはず
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