11『錬金釜』
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アインクラッド標準時歴、2024年3月――――春が近づき、段々暖かくなってきた頃。ヘルメスは、最前線であるアインクラッド第五十六層……ではなく、はるか下層の第二十七層にあるホームで、外の気温を感じる気も無く沈んでいた。
ヘルメスのホームは、二十七層主街区《ロンバール》の、複数あるストリートの一つにある。《職人の町》とも呼ばれるこの階層は、その名の通り職人クラスのプレイヤーが多い。月に一度、NPCが開く市に合わせて店だしをするプレイヤーも多い。実際、ヘルメスも錬成した《転移結晶》を始めとするアイテムを売り払っている。本来上の階層に行かなければ手に入らない種類の結晶アイテムも売っているため、中層プレイヤーの中にはヘルメスが店を出すのを待って結晶を買いに来る者もいるほどだ。それほどまでに結晶アイテムはこの世界では重要なのだ、と今更ながらに思う。
ヘルメスがこの階層に家を構えている理由は、一言で言えば「落ち着く」からだ。決して広くはない家の中だが、現実世界で暮らしていたトリメギストス家別館とよく似た雰囲気があり、ヘルメスは気に入っていた。これが本館に似ていたら死んでも住むのを拒絶したかもしれないが……。
自室には本棚やアイテムを保管しておける棚などが置かれている。窓は二つ。職務机にも似た黒壇の机には、書物や書類が山積みになっている。ヘルメスは机とセットで置かれた椅子の背もたれに体重を預け、脱力している。
「じゃまするぜ、錬金術の〜……ってうわ!なんじゃこりゃ!」
「邪魔だと思うなら来るな……」
場違いなほど明るい声を立てて入ってきた、ライトアーマーの男……イゾルトに、ヘルメスはぶっきらぼうに言葉を返す。するとイゾルトは苦笑し、
「何だよ、せっかく来てやったのによ」
「ならご苦労だったな。帰れ」
「何でや!!」
どこかで聞いたことのあるような突込みをするイゾルト。はて、どこできいたセリフだったか……と思い起こし、第一層攻略の時にいたサボテン頭のプレイヤーの物だった、と思い出す。確か名前は……そう、キバオウと言ったか。
イゾルトの風貌を改めて観察する。黄色を基調としたシャツの上に重ねられたライトアーマーは、一か月前の物より輝きが増している。装備の強化を行ったのだろう。彼のトレードマークでもある槍は、今日はアイテムストレージの中なのか、装備されていない。
実の所、ヘルメスもこの男の素性について詳しくは知らない。以前前線で出会った時にうっかり《錬金術》を見られたのがファーストコンタクトだったように記憶している。
あれ以来、何かあるとネタを伝えに来るこの男は、暇つぶしにもなれば迷惑にもなる奇妙なプレイヤーだった。普段は何をしているのだろうか。低層でゴロゴロしていると本人は言っているが……。それ
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