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《SWORD ART ONLINE》〜月白の暴君と濃鼠の友達〜
眠り姫
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何かを認めて動きを止めた。扉である。年期を感じさせる焦げ茶色の扉の中で、一つだけ純白に染められたそれはひどく目立っていた。
ジロウは第六感にピンとくるものを感じた。
その扉に近づくと、空気の密度が濃くなっていくような錯覚を覚える。古めかしい屋敷の中で、ここだけが奇妙に強い”我”を感じさせるのだ。
少し緊張しながら、ジロウは白い扉を控えめにノックした。上質な木材でできているらしく、木目の浮き出た表面は心地よい感触を手の甲に伝えてきた。
「ごめん、僕だけど……。勝手に入って来ちゃった。セレシアは、いる……よね?」
そう付け加えたのは、ノックした瞬間に中の空気が揺らいだ気がしたからだ。返事がないのでジロウは意を決してドアノブを回してみた。カギは、かかっていなかった。
慎重に戸口をくぐったジロウは、次の瞬間に絶句した。
まず、輝くような緑の芝が、ドーム状の大きな部屋全体に広がっている。白い壁にはツタがからまり、天辺まで細いつるを伸ばしている。中央にはぐるぐるに捻れた巨木がそびえており、見たこともないような果実を実らせていた。
甘い芳香が鼻孔をくすぐり、ジロウを夢見心地にさせた。部屋の端っこに流れる湧き水をまたぎ、魅入られたように部屋に入ったジロウは、一つおかしなことに気がついた。窓の類が一切ないのにも関わらず、部屋全体が微かに明るいのだ。
理由はすぐに分かった。花だ。
ツタの所々に咲いた葵い花が、それと分からないほど静かに発光し、部屋全体を優しく照らしているのだ。
今まで見たこともない不思議な空間だった。
それでも、一応生活する気はあるらしく、一見すると目立たない位置に様々な家具が置かれていた。梢の下にはテーブルと椅子が置かれ、大分離れた水路の近くに、木製のキャビネットや本棚、衣装ケースなどがぽつぽつと立っている。
ジロウの目はその中でも、自ずと強い存在感を発するものに引き寄せられた。緑と一体化したような天蓋付きのベットだ。
白い布団とシーツに覆われたそれは、遠目に何かを包んで膨らんでいるように見える。さくさくと芝を踏んで、ジロウは慎重にベットとの距離を詰めた。
次第に見えてきた”中身”に、ジロウは自然と動機が激しくなっていくのが分かった。
それはーー
小さな眠り姫だった。
流星が零した涙のような銀髪が、無造作にシーツに広がっている。真っ白の肌はすべすべしていて、室内の微光の中、ぼんやりと浮き立って見えた。穏やかな寝顔は、美しい夢の情景を見せつけるような可憐さで、同時に何百年も眠ったままではないかと思わせる静けさが漂っていた。
残念なことに、瞳は閉じあわされた長い睫に隠れている。
くぅ、くぅ、と彼女が静かな寝息を立てるたびに、布団が微かに上下する。
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