第九十三話 炎の選択その四
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「絶対に尊敬されない、この上なく馬鹿にされるさ」
「自分から言うものじゃないですね」
「そんなことはな。相当な馬鹿でもない限り言わないさ」
正真正銘の愚者でない限りは言わない、人間には羞恥心というものがありそれが僅かでもあれば言えない言葉だからだ。
「そんなこと言う奴ってのは絶対に碌なことをしないからな」
「そういうものですね」
「そんなことを言う奴がいたら縁を切った方がいいな」
「肉親でもですか?」
「肉親だったら近寄らないことだな」
縁は切れなくともだというのだ。
「そうした方がいい奴だよ」
「自分を尊敬しろとかいう人は」
「君の親戚にそこまで酷いのはいないだろ」
「はい、流石に」
「それはいいことだよ。中には碌でもない親戚ばかりの家だってあるしな」
類は友を呼ぶということであろうか、質の悪い人間もまた集まるものだ。それが血のつながった関係の中でも。
「まあ馬鹿な親が子供を育てたら馬鹿なガキが出来るからな」
「それ本当にありますよね」
「その逆もあるけれどな」
「そういう人いますよね」
「碌でもない人間のガキは馬鹿ガキって本当にあるからな」
中田はこのことにはやれやれといった顔だった、そして。
そのうえでだ、こうも言うのだった。
「俺みたいな奴は相当いい嫁さん貰わないと馬鹿ガキ育てちまうな」
「いえ、中田さんは」
「自分ではそう思ってるんだよ」
客観ではなくだ、主観ではというのだ。
「どうもな。そうなるかもな」
「そうですか」
「ああ、だからな」
「いい奥さんをですか」
「探すさ、いい人をな」
そうするというのだ、こう話してだった。
中田は上城にだ、グラスを差し出した。勿論自分の分もだ。
それからワインを出してきてだ、あらためて尋ねた。
「飲むかい?」
「ワインですか」
「ああ、これな」
コルクを開けながらの言葉だった。
「安い酒だけれどな」
「ご馳走してくれるんですか」
「実は安売りを何本も買ったんだよ、それで飲みきれなくてな」
言い繕いだった、確かに安いワインでありしかも安売りを買ったものだが上城に出す理由はそれではない。
「何本でも飲んでくれよ」
「何本もは」
「二本は飲めるよな」
こうも問うた中田だった。
「ワインは」
「それ位は」
「じゃあ飲んでくれよ、どの色もあるぜ」
赤も白もロゼもだというのだ。
「この赤だけじゃなくてな」
「じゃあまずはその赤をいただいて」
上城も中田の話に乗って応えた。
「次は白をお願い出来ますか?」
「両方か」
「はい、どうも」
ここでこう答えた上城だった。
「そうしたい気持ちで」
「じゃあ両方開けるな」
「すいません」
「謝ることはないさ、別にな」
「そうですか」
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