第一物語・後半-日来独立編-
第六十七章 強くあるために《3》
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それは一言。
奏鳴が辰ノ大花の住民全員に言った、初めての言葉だった。
長らく迷惑を掛け続けていた自分を支えてくれとありがとう。最後まで迷っていた自分を、救おうと必死になってくれてありがとう。
沢山の意味が込められた言葉。
全てを話すとなれば相当の時間が掛かる。だから今は、短くこうまとめた。
「世話になったな、皆」
言い、握る政宗の剣先を麒麟に向けた。
狙うは麒麟だ。
それを察知したのか、急に荒ぶり、めちゃくちゃな攻撃を繰り出す麒麟。
こうなっては誰もどうすることも出来無い。
暴走状態だ。
央信であっても操作出来ず、天魔によって侵食された身体が空しいだけだ。
「目の前の敵を打ち砕き、進んでいくぞ」
政宗を振り、麒麟を切る。
それが竜神が行動する合図だ。
咆哮を一回。竜神は吠え、暴走し、迫る麒麟へと衝突する。
衝突時、地面が一度大きく揺れた。
激しく光る流魔の光。
竜神は青く、麒麟は黒く。
周囲に光を散らし、混ざり合うように互いを攻撃する。
誰もが戦いの行方を見守る。
どちらが勝つか、負けるか。
結果によっては今後の地位を左右するであろう、政治にまで及ぶかもしれない戦い。
日来、辰ノ大花、黄森問わず、大多数の者達は息を飲み、立って眺めているだけだ。
自分達では到底入ることの出来無い戦いであることを、誰に言われずとも理解出来ていたために。
●
今のこの状況から見るに、優勢なのは奏鳴の方だ。
真っ直ぐ前を向き、視界に倒すべき敵を捕らえている。対して央信の方は具合が悪そうに、額には汗がにじみ出て、苦しそうに眉間にしわを寄せていた。
天魔の力を扱うために、負荷を負い過ぎたのだ。
呼吸のリズムは乱れ、何時倒れてもおかしくはない。
先のように、堂々と振る舞っていたのが嘘のようである。
本人には悪いがここは好機だと、奏鳴は感じ取った。
彼女自身もまともに神の力を扱ったことがない。長時間の扱いはさすがに無理が生じる。
決めるなら今だ。
「央信、お前は私に命を賭ける覚悟はあるのかと言ったな」
「それがどうした」
「確かに今までの私は命を賭け、辰ノ大花のために尽くすことはなかった。それは私に覚悟が無かったからではない」
覚悟以前に、
「自分自身の存在理由を見付けられなかったからなんだ」
遠く二人は離れている。が、奏鳴は竜神の、央信は天魔の力を得て身体能力が上がっている。
そのため呟くような、通常離れていては聞こえなかったであろう奏鳴の声が央信には聞こえた。
弱く、しかし内に秘めた強さ。
今の奏鳴はそれだ。
「だが今は違うぞ。私の存在理由……それは世界を知り、辰ノ大花を未来に向かわせる。父様が護ったこの辰の地をここで終わ
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