第一章
[1/2]
[1]次 最後 [2]次話
第一章
人の顔
同じ大学の同じ学部だった。しかし周りの二人に対する評価は全くの正反対だった。
「あの人凄く格好いいよね」
「そうそう」
「何か凄い美形」
その片方の鳥越信についてはこうした評価だった。背は高くすらりとしておりその顔は流し目が似合う美男子だった。しかも洒落者でありルックスは非の打ち所がなかった。
そしてもう一方の評価はこうであった。
「私デブは嫌」
「顔も膨らんでるしニキビだらけだし」
「何、あの歯茎」
松村尊氏の評価はこんなものであった。背は低く肥満体でしかもにきびだらけの顔におまけに歯並びの悪い歯茎まで見せている。誰がどう見ても醜男だった。
どちらがもてるのかは言うまでもなかった。鳥越の周りにはいつも女の子がいて松村は一人だった。二人の差は歴然としていた。
これは大学では変わらず社会人になってからもだった。松村はそのあまりな外見がかえって受けてそれだけで芸能人になった。鳥越は芸能プロダクションからしきりにスカウトがあったが彼はテレビ局に入った。その外見を見たテレビ局の上の方は彼をキャスターにした。二人の外見はここでも正反対の結果をもたらしたのだった。
松村は芸能プロダクションでもいつも一人だった。やはり顔が悪く容姿も悪いので皆からそれを言われた。中にはそれを露骨に揶揄する者までいた。
「あの豚がいると臭いんだよ」
こうしたことを言う事務所の先輩までいたのである。
マネージャーは女ではなり手がなく仕方なくもう何時でも首を切られるようなうだつのあがらない定年も近いような男が回された。彼の名を山本集太郎という。彼は松村のマネージャーになった時にこう言っただけだった。
「頑張ろうね」
これだけだった。実に呆気ない。しかしこのマネージャーは彼が事務所に入って三日目でもうすぐに仕事を持って来たのであった。
「エキストラだけれどね」
「仕事ですか」
「うん。どうかな」
こう彼に対して問うてきた。
「ほんのちょっとした仕事だけれど」
「やらせて下さいっ」
持って来てもらったというのに頼み込むような言葉だった。
「その仕事やらせて下さいっ」
「よし、わかったよ」
マネージャーは彼のその言葉に頷いた。こうして彼はタレントになってすぐに仕事を貰った。それに対して鳥越はどうだったかというと。
研修が終わってすぐだった。こう告げられたのである。
「報道番組でね」
「キャスターですか」
「アシスタントだがどうだい?」
こう上司に言われたのだった。
「夜の十時からね」
「研修が終わってすぐですか」
「君ならできるよ」
その上司は笑顔で彼に告げた。
「君ならね。いや実はね」
「実は?」
「君研修でトップだったんだよ
[1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ