第四章
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福本はベンチで上機嫌で言った。実は彼等は今日の試合は半分以上諦めていたのだ。
「あえて大騒ぎしてベンチに入ったんやけれどな。もうヤケクソで。そしたら近鉄の方はガチガチになっとりましたんや。それ見てこっちはかなり気が楽になりましたわ」
彼は後にこの試合を振り返ってこう言った。阪急はその試合で勝ちをもらえそうだと思いさらに奮い立った。
それに対し鈴木は必死に耐えていた。重苦しいマウンドであった。このエース同士の投げ合いで先に崩れるのはどう見ても彼であった。
「監督、もうすぐ鈴木の投球が百を越えます」
「ああ」
西本はそれを黙って聞いていた。そして静かに頷いた。
鈴木が肩で息をしだした。それに対し山田は相変わらずのポーカーフェイスである。
八回、福本が出塁した。出すと危険な男であった。
「走るな、これは」
観客席で誰かが言った。案の定彼は走った。そして三塁を陥れた。
打席には四番マルカーノがいる。チャンスには無類の勝負強さを発揮する男である。
鈴木は三塁にいる福本を見た。彼がホームを踏むと三対一、今日の山田の調子からすると絶望的な得点差である。二死とはいえ決して気が抜ける場面ではない。
(けど逃げるか、ここは絶対抑えたる)
鈴木は意を決した。そして渾身のボールを投げた。
だがそれは打ち砕かれた。マルカーノのバットが一閃した。
打球は高く飛んでいく。そして藤井寺のレフトスタンドに消えていった。トドメとなる一打であった。
「終わったな・・・・・・」
西本はそれを見て言った。そして次の長池に打たれたところで彼はマウンドに向かった。
「スズ、ご苦労さん・・・・・・」
彼は鈴木に対して一言言った。その目には光るものがあった。
「・・・・・・・・・」
鈴木は無言でマウンドを降りていく。そして彼はベンチに消えていった。
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