第二章
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第二章
昭和四一年に入団した。常に走り遊びもせず己が身体を鍛えた。そして弱小球団であった近鉄において投げ抜きチームを支えていた。速球と抜群のコントロールが武器であった。
だがその速球も次第に翳りが見られるようになった。それと共に勝ち星も奪三振数も減っていった。
その時に近鉄の監督となったのが西本であった。彼は鈴木をことあるごとに怒鳴りつけた。
「あの阪神の若い奴を見習わんかい!」
オープン戦で打ち込まれた鈴木に対しこう怒鳴りつけたこともある。その若手とは当時デヴューして間もない山本和行であった。出て間もない若手と比べられて鈴木は怒った。そして遂にはフロントにトレードを直訴したのである。
だが彼はやがて気付いた。西本は本当に彼の将来を考えて怒鳴っていたのだと。
彼はやがて速球を捨てた。そしてそれまで変化球はカーブとフォークだけだったがスライダーとシュートも覚えた。そして彼は速球派から技巧派に転身して復活したのだ。
この年鈴木は投げ抜いた。まるで鬼神の様に投げた。25勝を挙げ奪三振数も防御率もリーグトップであった。この年彼は恩師が急逝し夫人も事故で入院している。それでも投げ続けたのだ。
「苦しい時こそ耐えるんや」
彼は歯を食いしばって投げた。その日も先発を任されていたのだ。だが。
鈴木はプレッシャーに必死に耐えていた。前日は自宅で休みをとった。彼は明日に備えすぐに眠るつもりだった。
しかし寝付けない。明日のことが気になりどうしても眠れないのだ。時は無常に過ぎていく。
次第にデジタル時計の音までわずらわしくなってきた。彼はたまらずそのコンセントを引き抜いた。
「何でいつもは聞こえんような音がこんなにやかましいんや」
彼は顔を顰めてそう言った。そして夜が明けた。
彼は自宅を出た。そして車を自分で動かし二時間後藤井寺球場に入った。
強靭な身体を持つことで知られている彼でも疲労は限界に達していた。彼の身体は異様に固くなっていたのだ。
彼だけではなかった。見れば近鉄の選手は皆そうであった。
「この試合に勝てばプレーオフだ」
「そして日本シリーズだ」
そう思うだけで彼等は緊張してしまっていた。弱小球団と蔑まれてきた彼等にとってそれは夢のような話であったのだ。
「これは誰もが経験することやけれどな」
西本はそれを見て一人呟いた。
「あいつ等もそうやったし」
そこにこの日の相手である阪急ブレーブスの選手達がやって来た。
かって西本が一から鍛え上げた戦士達である。彼が監督をしていた時は遂に日本一にはなれなかったが今はシリーズ三連覇を達成している最強の戦士達であった。
昭和五〇年のプレーオフにも一度激突している。そこで近鉄は阪急の誇る恐るべき剛速球投手山口高志の前に敗れた。その恐るべ
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