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渦巻く滄海 紅き空 【上】
七十 裏切り
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淡々と呟く。薄く眼を細める彼の顔は無表情だ。だがその瞳の奥には確かに人の感情と呼ぶべき色があった。


「シン兄さん……」






















雲の切れ目から覗く月が見事な円を描いていた。

青白く澄み渡った月の光に唐紅の社が浮き上がる。冷たい風が谷間を吹き抜けて、木々をざわめかせた。水底の岩で砕けた波が小さな白い花を咲かせる。

朧げな月明かりの下、一枚の白き羽根がふわりと水面に降り立った。


否、それは羽根ではない。羽根の如く軽やかに水上へ降りた、ひとりの少年だった。


星を散ばせた夜空が水辺を彩る。水面を音も無く歩いていた少年はその白き羽織を翻すと、目の前に聳え立つ岩壁を仰いだ。

岩壁に穿たれた穴を塞ぐように佇む社。そしてその穴には奇怪な岩が嵌っている。とても通れそうにない其処を彼は若干物珍しげに眺めた。

奇岩怪石の中央に貼られた『禁』という御札。それを目にしてふっと口許を緩めた彼は、やにわに印を結んだ。
途端、途轍もなく大きな奇岩がズズズ…と上へ浮き上がる。岩から滴る水が糸を引き、小さな滝を作り上げた。

奇岩が浮くにつれ、ぱっくりと口を開ける洞穴。


社を潜る。滝を抜けると、背後で再びズズズ…と音が轟いた。奇岩が月光をも遮り、より一層深い闇が広がる。閉ざされた外界。

存外広い洞窟の奥で、数人の男達の影が少年―――ナルトを待ち構えていた。
「な…っ!?」

月明かりも届かぬ闇の中、驚愕の声が響き渡る。次いで掛けられた声音は歓喜に満ち溢れていた。



「ナル坊じゃねーか、うん!!」
「久しぶりだな…坊」

明るく快活な声と嗄れ声。同時に声を上げた二人は今思い出したかのようにお互いを睨みつけた。どちらの姿も陽炎のように揺れている。

「そういえばお前とは決着がついていなかったな…」
「いくらサソリの旦那でもこればかりは譲らないぜ、うん!」
金髪を頭部の天辺で結い上げている青年が口を尖らせる。一方の男は背中を曲げているのか、随分と低い位置で、しかしながら上から目線で唸った。

「こいつは俺が傀儡にするんだよ…。こいつなら今まで俺が造った傀儡の中でも最高傑作になるだろうぜ。坊の身体は俺のモットーである『永久の美』によく似合うからな」
「ナル坊はオイラが美しい花火として散らすんだよ、うん!!ナル坊こそ『儚く散りゆく一瞬の美』としての芸術に相応しいんだって!うん!!」
「違うな。こいつは毒で眠るように死ぬんだ。傷一つでもついたら勿体無いだろーが」
「いーや!芸術は爆発だ!!だからナル坊は爆死で決まり!うん!!」

一人を巡っての言い争いだが、話している内容はやけに物騒だ。互いに譲らぬ芸術の
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