無題
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ズルズルだ。奥歯が軋む。
「初めての割には度胸あるよね」佐々岡が言う。「大体腰引けるわな」元山の走る環状線南側のストレートをコインパーキングでチームメイトが眺めている。
佐々岡はリーダーである。佐々岡はリーダーであるが「アキラ」じゃない。吉人だ。自分の名前に誇りを持ってる。他のやつみたいに女になびかない。少なくともそのために名前は売らない。佐々岡がサイドミラーから消えるのを待ってカワサキにまたがった亮太が元山に話しかけた。「少しゆっくりにするか?」MOMOのサングラスから少し目線を感じる。「ウレイライ」口がまわらないので何回か言い直した「タ行」と「ラ行」が入れ違ってる。バイクは徐々にスピードを落としている。亮太が腕を膝裏に回して挟むように言う。元山の体は二本の腕が椅子の肘掛みたいになった格好になっている。カワサキから音楽が流れていた。流行りのL&PM(ラブ・アンド・ピースマジック)の一節だ。
一時代後れた マシンガン撃ち放つ
穴だらけ木漏れ日は やさしさだけは伝えてくれない
焦がれた朝は胸に 幸せを焼き付ける
矛盾だらけの夏は 僕らの心冷ます
いつだって流行は若者の苦悩を歌ってる。歌うために苦悩を生み出しているようにも思えるほどそれはいつの時代でも若者のあらゆるところに生まれ、そして歌われるんだ。「灰汁抜きだ」思った。何か理由はわからない。きっと「若者の灰汁抜きなんだ」
ギターソロがオクターブを二往復して破綻したところで曲が終わった。次の曲は前奏がやわらかいピアノだった。曲は知らない。頭の中では「アイ・ウォナ・ホールド・ユア・ハンド」が流れている。いつだったか、山に墜落したジャンボ機からヘリで救出された女の子の頭の中には「ビートルズ」が流れていたらしい。昔のVTRだ。「奇跡の瞬間」ってTV番組でやってた。なんで。ヘリに吊るされて「ビートルズ?」今謎が解ける。そういうこともあるんだ。きっと。こうしていると自分が立派に滑り切って「グライダース」の一員になったとしても何も変わらない気がした。正確に言うとこのグループはグループにならないことを目的としているんじゃないかって思わせるんだ。他のメンバーはスタート地点で待っているし。俺はひきずられている。亮太はスロットルを握るだけ。「つながりの無いグループ」元山はそう思った。「つながってる場合じゃないし、すげーツライし」って。
「みんな待っててくれっかな」
受け皿のあるドロップアウト&ダイブ。その何十秒かで、でかすぎた期待が適度に萎む。左カーブが続く。結構期待してたんだぜ。ワイワイ楽しめるやつを、色々とさ。
環状線を三分の二ほど行ったところで別グループの車達とすれ違う。赤いスポーツカーで「アキラ」を後部座席の真ん中に置き、両サイドに女の子。前の席には男が二人いる。い
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