無題
[1/12]
前書き [1]次 最後
北関東の平原に新山が現れて三十九年。そこは富士を望む程の高台になっていた。西の麓から頂上にかけてはなだらかであり、登ることにそれほどの難儀は無い。反対に東の斜面はひどく急で、断崖に近い。頂上は柔らかなカーブを描き小さなドーム状になっており、東の急勾配を背に富士を眺めることになる。富士山の噴火が予言されてから約三十年かけて膨れあがった新山は「新山」とだけ呼ばれ、特に名前を付けられなかった。人々は云う。あれは富士の身代わりだと。名前を付けてはいけないと。「新山」は二十九年と八ヶ月、三百八十七bでその成長を止める。四十年かけてそれを取り巻く道路が整備され、「新山」は「富士」の身代わりとしての神的役割を解かれる。そしてその経緯から「新しい者たち」の象徴的垂涎の場となり、やはり「シンザン」と呼ばれた。
「新山」の認知と時を同じくして北関東に以前の暴走族と一線を画したグループが現れる。彼らは代々そのリーダーを「アキラ(公)」──漫画のアキラのことだが──と呼び、自分達のグループが「台風の目」を守るモノであることを公に主張した。「台風の目」とは「アキラ」的人間のことであり、「台風の目」は有害に相対する無害として発生し、尚且つ安全と「非」殺伐を同時にあらわした。「アキラ」は社会的に認知されるべき弱者とされ、それを取り巻く者達はそれに従う台風の雲の渦に例えられた。数多くの集団はその「アキラ」の秘密的性格から徐々に周囲への想像を肥大させ、彼らは空の台風のように破壊と豊穣をもたらすことを謳い街に踊る。グループの現存在は「アキラ」の現実的存在と、人々がその神秘的な噂を信じることによってたすけられている。その歴史は三十年前の出来事から始まり、人々によって造り上げられたのだ。
神秘的ナモノゴトハ非神秘的ニンゲンニナイホウサレルコトニヨリ
ダイヤモンドホドノ価値ニカワル
ヨノナカノスベテノ事象ハケイケンサレタアトモ
厳然トシテソコニアルトイウノニ
時は2026年 街が新緑に満ちる初夏 男達が火花を散らす。線香花火にも似たささやかな火花。
「グライダース」
彼らのチーム名である。
北関東新山環状線内回りに グライダース 元山伍一の火花が散る。元山はカワサキ HIDRO 源平=@1100の後ろにワイヤーでつかまり踵の鉄で火花を散らしている。ガードレールが微かに照らされて赤い。元山の腕は痺れはじめていた。この環状線を一周するまでバイクは止まらない。ヘルメットも被っている。ライダーススーツは炭素繊維を織り込んだ特注品だ。それでも腕はこわばる。コケてみなければそれの安心感は出て来ない。スーツは元山が好きなベージュに、赤いサイドラインが入ったデザインだ。こだわりの品と一緒に恥ずかしい感じになってしまったらもうその後は
前書き [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ