第十二章
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歪んだ。こうして近鉄は遂に勝ち越した。
「けれどたった一点やぞ」
観客席に座る中年の太った男が顔を顰めて言った。
「あの阪急の打線相手には心細いもんや」
そうであった。阪急も負けるわけにはいかなかった。彼等は決死の覚悟で山口に向かっていった。
だが簡単にツーアウトを取られた。あと一人、近鉄ベンチ及び観客席から沸き起こるような気が感じられた。
「御前等このまま負けてもいいんか!」
この試合四番に座る加藤が言った。
「ここで逆転して一気に優勝するつもりでやらんかい!」
彼は拳を振り回して叫んでいた。
「俺まで回せ、そうしたらあの若い奴からホームラン打って試合決めたるわ!」
「おいヒデ」
ここで隣から誰かが口を挟んだ。
「悪いが御前には回らん」
「何っ、誰じゃそんなこと言う奴は」
加藤は声がした方に顔を向けた。
「俺がホームを踏んだるわ。安心せい」
そこには福本がいた。彼はわざわざネクストバッターサークルから戻ってきていたのだ。
「そしてあとはこいつがやってくれる。島谷が打ってな」
そう言って彼は蓑田を指差した。彼の俊足は有名であった。昭和五二年のシリーズは彼のホーム突入が勝負を決めたと言われている。
島谷の勝負強さも有名であった。阪急打線は西本が育てた最強の打線であった。それはこの年、そして翌年一世を風靡した近鉄の『いてまえ打線』にも匹敵するものであった。
「御前が怒ることはあらへん。御前はそこでうちの勝ちをよお見とくんや」
「ああ」
加藤はその言葉に頷いた。福本はそれを聞くとゆっくりとバッターボックスに入った。
山口は投げた。ボールを見た福本の目が光った。
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