紅の雨 その三 そして、…雨は静かに降り出した
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「こちらに来い」
そう言い自分の羽織を外し、しえみに掛けてやると上品に笑い、手を握る。
「いっ、いいですよ。それに貴女は寒くないんですか?」
「私のことならば問題ない。それよりも私はそなたに風邪を引かれてしまう方が後悔する」
トク……ン。
まただ、この名前も知らない妖艶漂う女性にそう言われると歯痒いような不思議な気分になる。
見せたいものがあると連れてこられた場所には一本の見事な梅……いや、赤染めの桜が天に枝を伸ばしていた。
「どうだ?美しいだろう」
そう自慢げに胸を張る彼女の横でしえみは目を見開いた。
狂ったように赤い桜……それはいつか見たものとそっくりだった。
「あれの名は紅」
「くれ……ない?」
唐突にその名を呼ぶ彼女に遅れまいとする仕草が今の不自然の間を作った。
美しい…。
珍しい植物がたくさんある中、少女をここまで魅了したのはこの桜が初めてだ。
「好色女とも女好きな憐れな女が神に魅入られた姿とも言われている…」
「そんなことないですっ!」
「しえみ?」
彼女がいきなり声を上げたことに驚きながらも可愛いと、どこかずれたことを考えてしまう。
「こんなにきれいなのに……そんな悲しいことを言わないで下さいっ、紅さん」
「そなたっ!?何をっ」
「それが貴女の名前……ですよね」
ああ、……やはり、全て解っていたのだ。
「どこで解った?」
「最初から…と言いたいですが、あの桜の木を見るまで全然気づきませんでした」
ごめんなさいと、俯くしえみの頭を優しく撫でると恥ずかしそうに笑ってくれた。
……最後にその顔が見られれば、それも悪くはない。
「そろそろ時間だ」
「えっ?」
彼女は愛しそうに陽を宿す髪の一房を掬い上げると、それに口づけをする。
「間も無く夜が明ける。そなたはあの美しい庭のある家に帰るのだ」
そう……あの者と約束したのだ。
彼女を後夜の間だけ連れてくる代わりに、もう二度と天空の庭を抜け出さないと…。
「私っ、逢いに来ます!」
「しえみ?」
東の空が紫に染まる頃、少女の姿はいつかの彼女のように宙に消えた。
『いつかまた紅さんに逢いに天空の庭に来ますからっ』
「ふふっ…本当に……そなたの祖母が自慢するだけはある良い庭だった」
そして、それを守る孫娘。
年頃にも拘らず泥に塗れて
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