9部分:第九章
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はそれを黙って見ていた。
「打てるかな」
「わからないな」
いつもは頼りになる筈の男に期待が持てなかった。
「あんな調子じゃな」
「ああ。今の広沢は」
それは広沢本人の耳にも入っていた。
「・・・・・・・・・」
彼はそれを一言も喋らずに聞いていた。それがかえって彼の心を落ち着かせた。
「よし」
今までの迷いが切れた。思いきり振っていこうと決心したのだ。
「広沢の奴、ふっ切れたようやな」
それは野村にもわかった。
「今のあいつは期待できるで」
「そうでしょうか」
コーチの一人は不安そうであった。
「ああ。バッティングってのは相手のデータとかこっちのことも重要やけれどな」
まず相手のデータから入るのが野村らしかった。
「まずは気持ちや。鎮めとかな打てるもんも打てへん」
「はあ」
「わかっとらんようやな」
野村はそのコーチの反応を見て顔を顰めさせた。
「いや、そうじゃないですけれど」
彼も野球をしている。それ位はわかっているつもりであった。
「だったらわかる筈やな」
「は、はあ」
野村が言う言葉ではないのではないか、そう思いながらもここは口を閉ざした。
そして広沢に目を向けた。
「大丈夫かなあ」
彼はまだ不安であった。しかしそれは杞憂であった。
仲田の左腕が唸った。そしてボールが放たれる。
だがそれは失投であった。真ん中高めの甘いコースに入った。
「しまった!」
仲田は顔を青くさせた。それは広沢にとっては正反対であった。
「もらった!」
彼はバットを振り抜いた。そして打球を思いきり打ちつけた。
「いった!」
「やられた!」
両者はほぼ同時に叫んだ。打球は一直線にバックスクリーンめがけ飛ぶ。
「いけ!」
ヤクルトファンも叫ぶ。打球は彼等の思いも乗せて凄まじい速さで飛ぶ。
そしてバックスクリーンに叩き込まれた。まさかのソロアーチであった。
「やったぞおお!」
広沢は猛ダッシュでダイアモンドを回る。会心の一打であった。
そしてホームを踏む。これでヤクルトは見事勝ち越した。
「よし!」
「広沢よくやった!」
ファンからの喝采も止まない。彼はようやく長いトンネルから脱出した。
「打つべき人が打ち」
野村は試合を観ながら呟いた。
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