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三年目の花
7部分:第七章
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普段はそれ程自分を表には出さない。どちらかというとクールである。
 だがその本質はあくまで野球を一途に愛する一人の男だ。彼はこの時その本来の姿に戻っていた。
「勝ったる、絶対にな」
 そう言うと彼は球場を後にした。そして翌日からの決戦に備えるのであった。
 台風が接近していた。その中でいよいよ決戦の火蓋が切られようとしていた。
「まるでドラマみたいだな」
 神宮に詰め掛けたファンの一人が風を身体に浴びながら呟いた。
「ここで決めたらドラマなんてもんじゃないぞ」
 見れば一塁側も三塁側も満員である。両球団のファン達が駆けつけていた。
「頑張れ!」
「俺達がついているぞ!」
 ヤクルトファンが歓声を送る。
「優勝や!」
「また河に飛び込むんじゃ!」
 阪神ファンもである。野球はやはりファンあってのものである。
 そのファン達の歓声の中両軍はベンチから出て来た。そして遂に決戦がはじまった。
 七回裏ヤクルトの攻撃である。六対五、試合はヤクルト優勢の状況で進んでいた。
「このまま押し切れ!」
「逆転や!」
 両軍のファンが互いのチームに熱い声援を送る。試合は天王山を迎えようとしていた。
 ツーアウトランナー一二塁。打席には八重樫幸雄が立つ。長い間ヤクルトで正捕手を務めた男だ。
「八重樫打てよ!」
「ここで打ったらヒーローだぞ!」
 彼もまたファンに愛されてきた男である。初優勝の時もいた。
「よし」
 八重樫はバットを強く握り締めた。
「ここで打たなければあの人達に申し訳ない」
 彼はかってヤクルトを支えた戦士達のことを思った。
 優勝の時に主砲だった大杉勝男。シリーズにおいては日本一をもたらしたアーチを放った。その前に疑惑のアーチも放ったがそれを吹き飛ばす程大きなアーチだった。
「打ったぞお!ホームランだ!」
 彼はそう言いたげに満面の笑みでダイアモンドを回った。そしてナインが待つホームベースを思いきり踏んだ。打つだけでなく常にチームメイトのことを思い、いざという時には身を挺して守る心優しき好漢であった。
 船田和英。ライフルマンと呼ばれバッテリー以外の全てのポジションを守ることができた。そして地味ながらその堅実な守備でチームに貢献した。
 その二人がこの年世を去っていたのだ。彼等のことをファンも選手達も決して忘れてはいなかった。
 八重樫は肝を据えた。どんな球でも打つつもりだった。
「来い!」
 心の中で叫ぶ。そしてマウンドにいる仲田を見据えた。
 仲田も敗れるわけにはいかなかった。この戦いには阪神としても落とすわけにはいかなかったのだ。
「負けへんぞ!」
 仲田は激しい形相で八重樫を見据えていた。いや、睨んでいた。
「わしにはファンがついとるんじゃ。何時でも熱い声援送ってくれたファンが
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