第53話 「民の竈は賑わいにけり」
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いじゃろう」
ビュコック提督がそう言い返す。
「にもかかわらず、あの皇太子は表舞台に出てきた」
ジンクスというものは、なかなかあなどれん。人の行動を縛るものがある。
にもかかわらず表舞台に出てきた。大人しくしていてもおかしくないというのにだ。
「我々は、あの皇太子を過小評価していたようだ。それともこれも皇太子の二面性だろうか?」
レベロ君の言葉がずんっと肩に圧し掛かってくるようだ。
「やはり同盟は未曾有の危機の中にいるのだ」
会議室の中に重苦しい空気が立ち込めていた。
あの皇太子さえ、いなければ……。
しかし次にでてくるのは、彼以上の器量を持った人物ではないだろう。
かつての門閥貴族のように、暴虐無残な人物だったら、それこそ阿鼻叫喚の地獄絵図の出来上がりだ。そう考えれば、まだ話し合う余地がある分、あの皇太子の方が良い、というべきだろう。
「人物的にはまともな男だからな……」
私がそう言うと、部屋の中で誰かが深いため息を吐いた。
■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■
宰相閣下が窓際でコーヒーカップ片手に外を眺めています。
「民の竈は賑わいにけり、か」
ふと呟かれる言葉に、何と言って良いのかわかりませんが、不思議な重みを感じるのはなぜでしょうか?
帝国全土で、赤ん坊が生まれてきているそうです。オーディンでも同様だそうで、ここのところやたら、医療関係者が陳情に訪れるようになりました。
まあ一言で言えば、ベッドが足りないという事です。ミルクや医療品の増産が決定しましたし、急ピッチで造られているそうです。
製薬会社が大もうけしているとニュースで言っていましたが、誰も批判はしていないという事です。
子どもが多く生まれる。
ミルクや医療品がたくさん作られる。たくさん売れる。
大もうけ。
ぼったくっていない以上、文句の言いようがない。
「そんなもん、貴族の施設を使えや」
あっさり宰相閣下は蹴ってしまいました。
という訳で、貴族のお屋敷では赤ん坊の泣き声が響く毎日だそうです。ブラウンシュヴァイク公爵家でも、同様です。
ラインハルト様も対処に借り出され、
「赤ん坊の声でノイローゼになりそうだ」
と嘆いておられました。
もうあっちこっちで泣いてるんだぞ。と目を真っ赤にしておられます。
「……それは」
「でも、かわいいからいいけどな」
うわーラインハルト様がこの様に仰るとは、驚きです。
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