少女の作る不可測
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うのに。
「どれだけバカなのっ……亞莎、入るわよ」
いかり肩でのしのしと歩き詰め、一つの部屋に辿り着いた蓮華は部屋主の名を呼びながら、木製の扉を出来る限り感情を抑えて開き中に入る。
「れ、蓮華様? 如何致しましたか?」
「袁術からの救援要請よ。先遣部隊二万がたった一日で壊滅、敗走。それも倍以上の兵力を以って戦った野戦でね」
驚愕。軍師としての力量を冥琳から認められているモノクルを掛けた目つきの鋭い少女は顔を蒼褪めて言葉を失っていた。その少女の名は呂蒙――真名を亞莎といい、孫呉の次世代を担う軍師として目下研鑽中の身である。
蓮華とて、事の重大さは理解している。黄巾の時から戦に従事しており、内乱の平定も幾度となく行ってきた身である為、その規模の軍が一日で大破するなどありえない事も知っている。
「こ、黒麒麟と張飛はそれほどの将なのですか!? でしたら私達ではさすがに――」
「弱音など吐くな」
ぴしゃりと、蓮華は慌て始めた亞莎の言葉の続きを止めた。その身から発する王の気に圧された亞莎は疾く口を紡いで、されども不安に溢れる瞳を向ける。
「今は負の思考に捉われる時では無いぞ亞莎。それに……あの女狐が珍しく情報では無く警告を寄越してきた。二人の将の武力だけでは無くて軍師鳳統を侮るな、と」
蓮華は続きを言おうとしたが口を噤む。自身の腹心として成長している彼女に気付いて欲しくて。
――天才と呼ばれる鳳統をあなたに抑えて欲しい。
雪蓮ならばきっと続きは言わない。断金と呼ばれる程に絆の深い冥琳に対してそこまで言わなくても伝わるだろう、と。
そして冥琳ならば、少し困ったような顔をしながらも不敵な笑みを向けて私が抑えよう、とでも言うはずだから。
既に確定した出撃で、如何にしてこの場を乗り越えるかは亞莎の頭脳に掛かっていると言ってもよかった。隠された本心にいつも自信を持てない彼女を勇気づけたいという想いもある。
じっと見据えられて亞莎もその意味する所に気付く。しかし彼女は蓮華の思惑とは違った事を口にした。
「蓮華様、私は美周嬢様のようには返す事は出来ませんよ。まだまだ未熟であり、自身の身の丈を理解しています。でも……非才の身ながら、あなたの望みを叶える為に尽力させて下さい」
それは柔らかい警告とも取れた。
孫伯符のまがい物としての想いならば私は返すつもりは無い、と自身の師の二つ名を出す事で暗に伝えているのだ。
あなたは何なのか、何になりたいのか、自分に何を求めているのか。
先にそれを伝えた上で自身の本心を口にした。
呂蒙として、亞莎として自分は孫権の為に己が力を全て使いたい、例え相手がどのようなモノであろうと、その真摯な想いを蓮華に向けた。
鋭い目つきで静かに告げ
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