4部分:第四章
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阪神ファンは思わず顔を上げた。
「入るか!?」
「入ってくれ!」
皆口々に叫ぶ。そして打球の行方を追う。
打球はそのまま上がる。飛ぶ。ファンはその動きを見てその顔を次第に綻ばせた。
「入れ!入れ!」
だが微妙なところであった。甲子園は広い。そして波風もある。ホームランを打つにはコツが必要なのだ。かって阪神でホームランアーチストとまで謳われた田淵幸一もあの伝説の優勝をもたらした助っ人ランディ=バースも波風に乗せて打っていた。この風が思わぬ曲者なのだ。
打球はゆっくりと飛ぶ。そしてスタンドに入った。
「よっしゃあああああああーーーーーーーーっ!」
一塁側だけではない。甲子園はその全てが阪神ファンに支配されている。球場全体が歓声で揺れた。
お立ち台が用意される。阪神ナインもファンも殊勲打を放った八木を迎える。阪神にとって非常に大きな一打であった。
そう、ホームランだったならば。
審判達が集まりはじめた。そして何かを話していた。
「ん!?あいつ等何話しとるんや!?」
「まさか八木のホームランにいちゃもんつける気ちゃうやろな」
彼等は眉を顰めはじまた。何かがあればすぐに暴れそうな者までいた。
だが彼等の危惧は不幸にして的中した。ホームランは取り消されたのだ。
「何ィ!!」
怒ることか怒らないことか。甲子園は今度は憤怒と殺気に支配された。
「われは何処に目ェつけとるんじゃ!」
「ボケ!アホ!ふざけたこと言うとるといてまうぞこのカス!」
罵声が飛び交う。メガホンまで投げる者までいる。事態は抜き差しならぬ事態になりかねなかった。
だが審判団の説明に流石の彼等も次第に落ち着きを取り戻してきた。打球は外野フェンスのラバー上段に当たっていたのであった。
「それなら仕方あらへんわ」
ファン達は憮然としてそれを認めた。
「二塁におるしな。こっからサヨナラ決めればええわい」
「そうでなかったら延長戦や」
彼等はそう考えていた。だが岡林はこれで立ち直った。彼はこの後獅子奮迅の力投で阪神打線を抑えた。
そして延長戦に入った。両者共相譲らず膠着状態となった。
岡林が力投した。そして延長十五回まで阪神打線を寄せつけなかった。結局試合は引き分けに終わった。
「長い試合やったな」
試合を最後まで観ていたファンもふう、と溜息をついた。
「惜しかったな、八木のあれは」
「仕方あらへんわ。明日打ってくれるわ」
こんな時でも彼等はポジティブであった。そうでなければ阪神を応援なぞできはしない。
だがこの試合は後々多いに響いてくる。勝てなかった阪神、負けなかったヤクルト。だがそれはこの時は誰にもわかりはしなかった。
翌日の試合だ。だが阪神ナインには疲れは見えなかった。
先発の猪俣が飛ばす。そ
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