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三年目の花
3部分:第三章
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実に早かった。
「そうやそうや!」
 すぐに亀山に同調しだした。
「亀山、もっと言うたらんかい!」
「あれは絶対にセーフや!」
「審判、われどこに目をつけとるんじゃ!」
 彼等は口々にブーイングをする。どの国のサポーターよりも激しかった。
 中村も出て来た。監督としての役職上彼を止めざるを得なかった。
「それ位にしとけや」
「けれど監督」
「ええから。御前の気持ちはよおわかった」
 中村は陰気かつ人に好かれない人柄で知られている。そして選手たちにも当然ながら好かれているとはいえなかった。その彼に言われると亀山も黙らざるを得ない。
「わかりました」
「よし、じゃあそれを次に向けてくれ。ええな」
「はい」
 こうして亀山はベンチに下がった。だが彼の抗議はそれで終わりではなかった。 
 その瞬間から阪神ナインの目の色が変わった。彼等は忘れていたものを思い出したのだ。
「今日は負けやな」
 野村は三塁ベンチを見て呟いた。
「しかも今日だけやないな。今年の阪神はひょっとしたら巨人よりも厄介な相手になるかも知れへんな」
 彼の予想は当たった。試合は延長戦になり阪神は見事三点をもぎ取った。その中には亀山のヒットもあった。
「おい、勝ったで!」
「亀山、出て来い!」
 三塁側はお祭り騒ぎであった。彼等は意外な勝利をもたらした無名の男の名を叫んでいた。
 これで阪神は勢いに乗った。しかもチームを引っ張ったのは亀山だけではなかった。
 助っ人のトーマス=オマリーにジェームス=パチョレック。二人の助っ人が打線の主軸となる。そして八木もいた。それだけではなかった。
 二十歳のこれまた無名の男新庄剛志。彼が背番号がライトスタンドからも見える程の派手なスイングで初打席でホームランを出す。彼は足も肩も一流であった。守備も恐ろしいものであった。
「何だ、あいつの身体能力は」
「これはまた凄い奴がおったもんや」
 阪神ファンにとっての嬉しい誤算は終わらない。ショートの久慈昭嘉、キャッチャーの山田勝彦。若き虎の戦士達が打線を作り上げていた。そこに投手陣が上手く噛み合った。
 左の仲田幸司、右の中込伸。左右のエースに加えて技巧派の湯舟敏郎、バランスのとれたエースナンバーの野田浩司。猪俣と山田、葛西稔もいた。投手陣はヤクルトよりも上であった。これが阪神の強みとなった。安定した投手陣がここで獅子奮迅の働きをしたのだ。

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