2部分:第二章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第二章
「キャッチャーは繊細なもんや。そうでなくては指示も出すことはできへん」
野村のキャッチャーの考え方は決して強気ではない。リードも作戦もデータに基づいた緻密なものであった。ここは強気のリードを旨とし、ピッチャーに怒声を浴びせることもあるダイエーの城島健児やかっての近鉄の有田修三等とは少し違う点である。
「つっぱり過ぎたら折れるもんや」
野村はそういうところがあった。強引な采配やリードは好まなかったのだ。
古田の考えにそれは大いに生かされた。そして彼は名実共に司令塔、そして野村の後継者としての地位を築いていったのである。
人材はともかく揃った。そして野村率いるヤクルトは三年目の公約を果す為に出発した。目指すは一つ、優勝である。
だが下馬評は低かった。毎年のことで最早食傷気味であるが予想は誰もが彼もが巨人。そして対抗馬には広島や中日である。誰もヤクルトなどとは予想していなかった。
実際に野村もそれは危惧していた。特にストッパーがいないのだ。
「開花が遅れるかも知れへんな」
野村も開幕直前に呟いた。かって江夏豊をストッパーに抜擢した彼である。ストッパーの不在がどれだけ深刻な問題であるか痛感していた。
それが早速顕著に現われた。ヤクルトは継投に四苦八苦することになる。
「五点差守ることの出来ないストッパーなんてはじめて見たぞ」
「これが甲子園なら野村さん死んでるぞ」
温厚なヤクルトファンはこの程度では怒鳴らない。怒ってはいても阪神ファンの様に過激にはならない。阪神ファンの熱狂ぶりは今更言うまでもないだろう。
そう、阪神である。このチームは前年もその前の年も最下位であった。かっての優勝は最早遠い昔のことであった。この五年間で何と四回も最下位を経験していた。常に話の種になる程弱かった。弱いからこそ阪神だともまで言われていた。
それ程までに弱かったのだ。時には一〇〇敗まで言われる始末であった。全てにおいていいところがなかった。将にセリーグのお荷物であった。ヤクルトを最下位に予想する者は殆どいなかった。だが阪神の最下位はほぼ全員が確信を以って予想していた。
「首位はわかりませんがこれだけは確定です」
こう言う者までいた。
「今年もやってくれるでしょう」
「高校野球の優勝チームの方が強いかもな」
「論外!」
皆阪神の盛大な敗北を願っていた。そうでなくては面白くはなかった。阪神は幾ら惨敗しても許された。それが話の種になるからだ。敗北しても人気があるのが阪神の不思議なところであるが。その敗北の仕方があまりにも素晴らしい、だから阪神ファンは止められないというファンまでいる。勝った時の喜びはそれだけにひとしおであるらしい。
この前の年の阪神も見事であった。六月には十連敗の後で一勝したがそこから華
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ