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三年目の花
12部分:第十二章
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たか」
 コーチの一人がそれを聞いて野村に話しかけた。
「ああ。これでニゲームや」
 二ゲーム差。残り二試合。この時点でこれは確定的であった。だが。
「直接対決か、残りは」
「そうでしたね」
 そうであった。阪神の最後の戦いの相手は他ならぬヤクルト自身であったのだ。
 十日に両軍は甲子園に集結した。阪神ファンも甲子園を埋めた。
「連勝や!」
「そや、それでプレーオフにまで誘い込むんや!」
 ファンも必死であった。阪神ナインにとっては常にいる有り難い援軍であった。
 だがヤクルトは流れを完全に掴んでいた。彼等はもう負ける気がしなかった。
「気持ち良く投げて来い」
 野村はこの日の先発に対して言った。
「わかりました」
 それは荒木だった。彼は力強い顔で頷いた。
「この甲子園は御前の遊び場みたいなもんや。思う存分遊んで来い」
 かって彼が甲子園を湧かせた事をあえて言った。彼の気持ちを乗せる為だ。
「はい」
 彼は頷いた。そしてマウンドに向かった。
 この日の荒木は完全に復活していた。阪神ファンの必死の応援も空しく阪神は彼に為す術もなく抑えられていく。それに対してヤクルト打線は好調であった。ハウエル、広沢がアーチを放つ。試合はヤクルトのものとなっていった。
 抑えには伊東を投入する。彼も阪神打線を寄せ付けない。
 九回裏遂に試合は終わった。
「やったぞ!」
 伊東は思わず甲子園のマウンドで飛び上がった。
「やりました!」
 古田もそれに飛びつく。そしてそこにヤクルトナインが集まる。
 やがて野村の胴上げがはじまった。そしてヤクルトナインと駆けつけてきていたファンの喜びの声が木霊する。
「やった、やったぞ!」
「俺達は勝ったんだ!」
 それを阪神ファンとナインは黙って見詰めていた。
「・・・・・・仕方あらへんな」
「これも野球や」
 彼等はそう言って去って行った。彼等は確かに悔しかった。だが相手が球界の癌巨人でないだけ気が楽だったのだ。
 ヤクルトは絶体絶命の窮地から遂に優勝を果した。野村の知略だけではなかった。そこにはナイン全体のひたむきな野球があった。
 今我が国の野球は巨人とそれを支配する悪辣な男の手により瀕死の床にある。だがそれでも素晴らしいゲームは続く。そしてそれは永遠に語り継いでいかなくてはならない。守っていかなくてはならないのだ。
三年目の花   完


                2004・9・29

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