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三年目の花
12部分:第十二章
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が泣いていた。
「凄い試合やった、これだけ必死になって野球をやったのははじめてやろ」 
 野村はナインに対して言っていた。
「は、はい」
 その通りであった。彼等は誰もが生まれてはじめてこれだけ必死に野球をした試合はなかった。高校の時よりも必死に野球をした。
「わしもこんな試合は滅多に見たことあらへん。そう、わしでもな」
 野村は今まで多くの死闘を経験してきた。杉浦忠の血染めのボールを受けたこともある。西鉄との死闘もあった。怪童と呼ばれた尾崎行雄と真っ向から勝負したこともある。頭から血を流しながらもホームランを打ったこともある。西本との戦い、阪急との優勝争い、鈴木啓示や山田久志といった名だたるピッチャーとも戦ってきた。思えばその野球人生のぶんだけ多くの死闘を経験してきた。その彼が言ったのである。
「そやからようやった、ホンマにようやった・・・・・・」
 泣いていた。彼は明らかに泣いていた。
 それがヤクルトの運命を決定付けた。この勝利によりヤクルトは単独首位に躍り出た。そして阪神戦に勝ち越しも決めた。流れは完全にヤクルトのものとなった。
「まだや!」
 だが諦めていない者達がいた。
「戦いはまだ終わってへんぞ!巻き返してこっちが優勝するんや!」
 阪神ナインとファン達であった。彼等は敗れこそしたがまだ闘志を燃やしていた。
 憤怒の形相で歓喜に包まれるヤクルトベンチを見ていた。誰もがその全身に炎を宿らせていた。
「行くで」
 高齢の縞の半被を着た男が周りの者に対して言った。
「ああ」
 彼等もそれに頷いた。そして神宮を後にする。
「名古屋や。そしてそっから反撃開始や。このままズルズルと負けてたまるか」
 ベンチを後にし廊下を歩く中村がコーチ達に対して言った。
「はい」
 いつもの落ち着いた様子はあまりなかった。声にはいささか激しさが宿っていた。
 だがその背には暗いものがあった。しかし誰もそれには気付いていなかった。当の中村さえも。
 九日の神宮でのヤクルト対広島はヤクルトの勝利に終わった。それに対して阪神は名古屋で中日に敗れた。
「終わったか・・・・・・!?」
「いや、まだや」
 それでも彼等は諦めてはいなかった。
「甲子園で最後の戦いや、そこで連勝や」
「連勝か」
「そうや、そうしたらプレーオフや。そこまでヤクルトを引きずり込むんや」
 三塁側は負けてもなお熱気に包まれていた。彼等とて優勝を見たかった。
 それはナインとて同じだ。いや、彼等こそその思いが最も強かった。
「勝つで」
 中村は一言だけであった。そして甲子園への帰路についた。
 阪神ファンは無言で頷き彼に従う。そして最後の戦場に向かうのであった。
「阪神が負けたか」
 野村はそれをベンチのラジオで聞いていた。
「負けまし
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