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三年目の花
11部分:第十一章
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ところまでこじつけた。
「あと一人!あと一人!」
 三塁側から木霊する。その中を一番の飯田が進む。
「飯田!この前みたいにやってくれ!」
「そうだ、今はあのサヨナラの時だ!」
「わしはタイムマシンは持っとらんぞ」
 野村はベンチの中からそれを聞いて思わず苦笑した。
「しかし飯田は粘りがあるからな。どうなるか見物や」
 彼は既に腹をくくっていた。そしてマウンドにいる中西を見据えた。
「ほう」 
 中西は飯田のその目を見て笑った。
「いい肝っ玉しとるな。流石は一番バッターだけあるわ」
 彼は急に楽しくなってきた。
「じゃあわしも思いきり投げたる。それを打てるもんなら」
 セットポジションから腕を大きく振った。
「打ってみいや!」
 渾身の力で投げた。右腕がまるで蛇の様にしなった。
 剛球が音を立てて来た。飯田はそれから目を離さなかった。
「今だ!」
 タイミングを合わせた。バットを全力で振った。
 ボールは龍の様にしなりながら三塁線を飛ぶ。
「やった!」
 ヤクルトファンが叫ぶ。
「やられた!」
 阪神ファンが絶叫する。だがそれをオマリーが止めた。
「させへんわい!」
 守備には不安のある彼が横っ飛びで止めた。そして倒れたままの姿勢で一塁に送球する。
「いけるか!?」
「終わりか!?」
 両軍固唾を飲む。だがここは飯田の足が勝った。
「やったぞ、同点だ!」
「クッ、まだいけるわい!」
 ファン達もそれぞれの顔でそれを見た。だが池山が帰ってことに変わりはない。これで勝負はふりだしに戻った。
「動いたで」
 野村は笑っていた。
「これで流れは大きくうちに傾いたわ」
「そうでしょうか」
 例のコーチはまだ不安そうであった。
「まだまだわかりませんよ」
「甘いな」
 野村はそれに対して言った。
「こうした時は一気に決まるんや」
「一気にですか」
「そや。御前もそれはわかっとる筈やけれどな」
「それはそうですが」
 だがヤクルトである。毎年下位に甘んじてきたチームだ。それは中々実感できない。
「確信は出来ませんよ」
「まあな」
 野村はそこではとりあえず頷いた。

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