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三年目の花
10部分:第十章
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ャーは若い山田からベテラン木戸克彦に替わっていた。あの優勝の時の正捕手である。
「任せて下さい」
 気の強い男である。少し疲れながらもニンマリと笑って応えた。
「勝ちましょう。そうしたら盛り返せますよ」
「ああ」
 木戸は中込のその心臓に賭けた。それはベンチにいる中村も同じであった。
「今日はいけるな」
「はい」
 コーチの一人がそれに頷いた。
「けれど九回ですし」
 それが問題であった。
「まあその時の為に備えも用意しとるし」
 チラリ、とブルペンの方を見た。
「あいつやったら大丈夫や」
「そうですか」
 中村は勝利を確信していた。中込と今ブルペンにいる男、その二人に対して絶対の自信があるからだ。
 ヤクルトの打順は四番のハウエルからだ。絶好の打順である。
「打て、ハウエル!」
「今のピンチを救ってくれ!」
 彼は今までチームの危機を救う一打を何度も放っている。こうした時最も頼りになる男である。
 だがこの時は中込が勝った。彼はあえなくショートゴロに倒れた。
「ああ・・・・・・」
「やっぱり今日の中込は無理か」
 一塁側を溜息が支配する。やはり無理かと思われた。
「あと二人!あと二人!」
 甲子園名物である筈のあと何人コールが木霊する。流石に阪神ファンはこうした時の熱い声援を忘れない。
 だが中込の疲れは彼自身が思っていたより溜まっていた。それは特にコントロールにあらわれた。
 次のバッター広沢を歩かせてしまう。そして打席にはズバ抜けた長打力を持つ池山が入る。
「池山、ホームランだ!」
「バックスクリーンで待ってるぞ!」
 彼のホームランは特徴があった。一直線にバックスクリーンに突き刺さる豪快なものだったのだ。ショートとは思えぬ大振りであり三振も非常に多かったがその破壊力はファンに愛されていた。
 その池山が打った。センターに飛ぶ。だがそれは幸いにしてホームランではなかった。センター前ヒットであった。
「・・・・・・・・・」
 中村はそれを見て暫し考え込んだ。
「どう思う」
 そして傍らにいるコーチに問うた。
「そうですね」
 彼も中村が何を問うているかよくわかっていた。
「そろそろ潮時かと。中込は今までよくやってくれました」
「よし」
 中村はそれを受けて動いた。マウンドに向かった。
「交代や」
 そして中込からボールを受け取る。

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