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三年目の花
1部分:第一章
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か洒落とユーモアのわかる人物なのだ。
「わしは陰気な男やからな」
 よく笑ってこう言った。自分を図々しくひねくれた人間であるとことさらに主張する。だがその本質は違うのだ。
 彼と長年に渡って戦ってきた闘将西本幸雄は彼を高く評価していた。こういう話がある。
 野村が南海の監督を解任され孤立無援の状況に陥った時のことである。新年の年賀状に当時近鉄の監督をしていた西本からのものがあった。そこには筆でこう書いてあった。
『頑張れ』
 と。西本は野村に何としてもこの苦境を乗り切って欲しかったのだ。
 西本は野村のことをよく知っていた。決して嫌いではなかった。だからこそ励ましたのだ。これが西本であった。彼はただの闘将ではなかった。人間としての度量の広さと温かさも併せ持っていたのだ。
「西本さんはわしを買い被ってくれとるわ」
 そう言いながらも西本への感謝の気持ちは決して忘れなかった。野村は西本に対してはあくまで誠実かつ謙虚に対応している。
「野村さんはああ見えても優しいんですよ」
「いい人ですよ。繊細で」
 こうした意見も多い。彼を知る者はよくこう言う。
「あの人ははにかみ屋かんですよ。だからわざとあんなことを言う」
「本当は困っている人を見捨ててはおけない。そういう人なんですよ」
 人生の辛酸を舐めてきた。だからこそであった。そして彼は心から野球を愛していた。
 暇があればテレビで試合を見る。高校野球もだ。彼は野球に全てを捧げていた。
 これについてもとかく言う人がいる。だが彼を批判する者は彼を全く知らないからだ。彼は野球を本当に愛しているのだ。
「愛とかそういった言葉はわしには合わへんな」
 そしてまた減らず口を言う。しかし常に野球のことを考えている。
「ほんの球遊びや。しかしそれが本当に難しくて楽しいんや。だから野球を止められへん」
 誰よりも野球を愛している彼はヤクルトの監督になっても当然の様に野球のことだけを考えていた。目指すのは一つしかなかった。
「優勝や」
 そして三年目で優勝する、と言ったのだ。
 ヤクルトで、である。巨人の様なチームではない。もっともこの当時の巨人は投手力を中心としたスマートなチームであり監督である藤田元司も至極まともな人物であった。あの『史上最強打線』という愚劣極まる滑稽な程醜悪で奇怪な看板を掲げた荒唐無稽な異常極まる打線を掲げたりはしなかった。この様なもので悦に入ることができるのは野球を冒涜しているからに他ならない。
 また当時のセリーグには巨人に匹敵するチームもあった。広島や中日も強かった。とりわけ広島の粘りは驚異的なものであった。
 そうした状況であった。野村は人材を着実に育てていった。まずは司令塔である。
 この時ヤクルトのキャッチャーは秦真司であったが彼はそれに満足してい
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