暁 〜小説投稿サイト〜
僥倖か運命か
第八章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第八章

 第三戦は場所を変えて後楽園球場。既に三原は勢いが自らの手の中にあるのを悟っていた。あとはそれを存分に使うだけだ。
 一回表一死から鈴木武がセンター前ヒット。三原は彼に盗塁のサインを出す。
 鈴木はまず二塁を陥とした。三原はまた盗塁のサインを出す。
 続いて三塁。大毎はこれに浮き足立った。
 二死で何とショート柳田がエラーをしてしまう。そしてそこに金光のヒットが加わる。相手を霍乱しそこに隙を生じさせる。そしてそこに付け込み崩していく。大毎は最早三原の魔術の中にあった。
 四回を終わって五対零。いきなり勝負は着いたかに思われた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・・・・」
 永田の口からは法華経の声が響いてくる。記者達はそれを聞いて顔を見合わせた。
「こりゃ駄目かな」
 だがまだ諦めていない者がいた。誰であろう、前の試合でスクイズを命じた西本本人であった。
「まだ試合は終わっとらん!わし等の意地を見せるんじゃ!」
 選手達を前にして言った。後に闘将と呼ばれる男である。彼の気迫に大毎は息を吹き返した。
 まず五回裏に一回にエラーをした柳田がレフトスタンドへツーランホームラン。これが反撃の狼煙であった。
「遂に火が点いたな」
 三原はそれを見て動いた。マウンドに秋山を送る。
 しかし大毎が意地を見せた。六回、バッタボックスに第二戦のあのスクイズでホームでタッチアウトにされた坂本が入った。
 その坂本が打った。そしてその後に榎本が入る。
 後に二千本安打を達成する男である。彼はここで仕事を果たした。坂本に続く。これで三点目が入った。
 勢いは大毎に傾きかけていた。それは西本も感じていた。
 彼は攻撃の手を緩めない。まずは秋山をマウンドから降ろす事を考えた。
 七回、あのスクイズを失敗した谷本が打った。今日の秋山は明らかにミサイル打線に捕まっていた。
「よし」
 三原は再び動いた。こうした時彼の動きは実に素早い。投手交代だ。
「ピッチャー、権藤」
 三原は主審に告げた。アナウンスが球場に響き渡る。
「やっと秋山を引き摺り下ろしたな」
 西本は腕を組んで呟いた。これで勝機が見えたと感じた。
 戦前よりミサイル打線を抑えられる大洋のピッチャーは秋山だけだと言われていた。その秋山を遂にマウンドから降ろすことに成功したのだ。意気上がる大毎ベンチ。
 権藤も優れた左腕である。だが今の波に乗ろうとするミサイル打線を抑えるのは難しい。
 今一つ制球が定まらない。八回に四球で二人のランナーを出してしまう。そこで葛城が打席に入る。
 葛城のバットが一閃した。打球はそのまま右中間を割った。長打コースだ。
 ランナーは二人共生還した。葛城自身は二塁ベース上でガッツポーズを上げる。これで同点だ。
 歓声に包ま
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ