第七章
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っての名物オーナーだ。後に拳骨と頑固で知られる西本にも臆しない。
「御前に任せて負けているだろうが!あの満塁の場面でスクイズを命じる監督が何処にいるんだ!」
「ここにおります!」
西本も言った。彼も意地がある。戦争では高射砲部隊で小隊長をやり戦後はアマチュア球団星野組で一塁手兼任で監督をして優勝させている。ろくに食べ物も無い時代、選手達の食べ物を調達しながら優勝させたのだ。その時彼はまだ三十前後という若さである。
「バカヤローーーッ!」
その言葉に対して永田は切れた。彼も一代で大映を築いた男である。血気も盛んだ。
「バカヤローーとは何だ!取り消して頂きたい!」
西本も激昂した。だが永田はそれ以上だった。すぐに電話を叩き切った。
永田は怒り来るってその場を後にした。そしてこの時点で西本の命運はほぼ決まってしまっていた。
しかも彼のラッパは止まらない。彼は報道陣に対してこう言った。
「うちは豪快な打線が看板のチームだ。それがコソコソとしていては勝てるわけがない。わしは谷本がバントの格好をした時に負けたと思った」
弁舌は続く。これには報道陣のほうが驚いた。
「西本は強打して内野ゴロの併殺を恐れたと言うとる。そんな風に考える時点でもう負けているんだ」
前代未聞であった。シリーズの真っ最中にオーナーが自分のチームの監督の采配を批判するのだ。そんなことは今までなかった。無論その後もない。
「永田さん大丈夫か」
インタビューの後報道陣の一人が首を傾げながら言った。
「まああのスクイズは確かに驚いたけれどな」
別の記者が言った。
「それでも西本さんの采配にも一理あるだろ。あそこであの秋山を打てるとは限らないんだし」
「それがな、あの時永田さん球場にいなかっただろ」
他の記者がそこで口を挟んだ。
「ああ。何処にいたんだ?」
「料亭でテレビ観戦していたらしい。ある人と一緒にな」
「ある人って・・・・・・誰だ?」
「親分さんだ」
その記者はそう言って西の方を親指で指した。その場にいた記者達はそれであっとした顔になった。親分とは鶴岡の通称である。彼はその風格と実力からそう呼ばれていたのだ。
「あの人が言ったらしい。あそこでスクイズはないだろうって。確かにあの人ならそう采配するだろう」
「しかし天下の大監督とはいえ他所のチームの監督だろ。その人の言う方を信用するというのも・・・・・・」
だが彼はそれ以上言えない。鶴岡の言う事は絶対的な重みがあるのも事実だ。何しろ関西球界のドンであるから。後に野村克也が南海の監督を急遽解任された時もその存在が噂された程だ。もっともこの件については野村の被害妄想とも言われている。真相は定かではない。だが存在が噂されるだけの力があったのは事実だろう。
「まああのスクイズが正し
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