第六章
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ここでダブルプレーなりでこのチャンスを無駄にしたら。それで全ては終わってしまうだろう。少なくともこの試合の勝利はまず無い。
一塁ランナーを見る。ランナーは途中から柳田と交代していた坂本だ。ベテランながら俊足で鳴らした男である。そう、彼は脚が速い。
チラリ、と打席の谷本を見る。何処か顔が強張っている。そして蒼い。
(確かにこの大舞台でこんな場面ではそうもなるだろう)
その時三原の脳裏で何から閃いた。直感が彼に対し何かを叫んだ。
(待てよ・・・・・・)
もう一度坂本を見る。見れば彼の顔も緊張している。谷本としきりに目を合わせ妙にそわそわしている。
西本は腕を組み動かない。まるで腹をくくったように。
これまでの戦いの場で育った直感、それが三原を知将たらしめているものだった。それが持つ意味を彼は他の誰よりも理解していた。
戦場ではその直感が生き死にを左右する。野球においては勝敗を。彼は戦場で、そして試合でそれを嫌という程教わった。
秋山と土井のバッテリーを見る。彼等はそれにはまだ気付いていないようだ。
二人がこちらを見た。そのとき彼はあるサインを出した。
(スクイズも考えておけ)
そうサインを出した。だが本当にそれを仕掛けてくるか。それは彼の直感だけがわかっていた。
(これまでこの直感のおかげで生き延びてきたし勝ってきた。ここは信じるしかないな)
そしてこうした場面で直感よりだ大事なものを。それは運だった。
三原はこの時一塁側ベンチにいた。これはホーム球場だからである。そしてそこからは三塁ランナーの表情がよく見える。そして右バッターの顔もよく見える。そう、谷本は右打者だった。
(これは僥倖か)
三原はあえてここで表情を消した。向かい側にいる西本に悟られない為だ。
ここで彼は大毎はほぼ強攻策で来るだろうと思っていた。スクイズは殆どないと考えていた。
だがあえてバッテリーにスクイズを警戒するようサインを出した。そうすればいざという時咄嗟に対処が出来る。
人は頭に入れていたことに対しては対処が素早いが頭に入れていないとそれは難しい。三原はそれも踏まえて二人にサインを出したのだ。
秋山と土井は頷いた。土井はナインにサインを出す。だがナインは普通にバックホーム用のシフトである。それを見て西本の目が光った。
(ふむ・・・・・・)
ひょっとするとやるかもな、三原はその目を見てそう思った。だがそれはひょっとすると、だ。確実にくるとは思っていなかった。
観客達は固唾を呑んでいる。さあいよいよミサイル打線が爆発するか。それとも秋山が抑えるか。どちらにしても目が離せなかった。
秋山はセットポジションをとった。そして三塁の坂本を見る。
坂本はそれに一瞬ビクッとしたように見えた。だが彼もプロである
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