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僥倖か運命か
第四章
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第四章

「!」
 秋山が動いた。投げた。だがそれは山内に投げたのではなかった。二塁にいる柳田に対して投げたのだ。牽制球だった。
 驚いたのは柳田である。だが遅かった。塁に戻れない。彼は挟殺されてしまった。
「な・・・・・・!」
 西本はそれを見て絶句した。彼だけではなかった。大毎ナインもバッターボックスに立つ山内も観客達も絶句した。そしてネット裏にいる永田も。
 土井は二塁ランナー柳田の動きを冷静に見ていた。そのうえで秋山に牽制球のサインを出したのだ。
 チャンスを潰された大毎はこの回無得点。これで流れを掴んだ秋山と土井はミサイル打線を抑え得点を許さない。
 試合は予想外の投手戦となった。秋山の右腕が土井のリードのもと唸ると中西も力投する。試合は六回まで両者無得点であった。
「何をやっとるんじゃ、ミサイル打線はどうしたんだ」
 永田はそう言いたかった。だが言えなかった。目の前の秋山と土井のバッテリーはまるで要塞の如きであった。
 七回裏バッターボックスには大洋の五番金光秀憲が入った。シーズンにおいては麻生実男と共に代打の切り札として活躍した。八十一試合の出場で打率二割五分六厘、ホームランは五本である。まさかこのような大試合で先発出場するとは誰も思わなかった。この起用も皆首を傾げた。オーナーである中部自身も妙な采配だと思った。
 だが三原の奇計にはいつもハッとさせられている。彼は三原に全てを託していた。ここが盛んにチームの事にも口を出す永田と違うところであった。これが良いか悪いかはまた別問題であるが。
 中西はまずストライクを取ろうと考えた。初球はストレートだ。速球が唸り声を挙げて放たれた。
 金光は初球はストライクで来ると思っていた。それもストレート。その通りだった。
 彼は振り抜いた。打球はそのまま上がっていく。そしてスタンドに入った。
「まさか・・・・・・」
 大毎ベンチは沈黙した。打たれた中西もナインもダイアモンドを回る金光を呆然とした顔で見た。
 金光はホームを踏んだ。大洋が一点を先制した。
「まだ一点や」
 西本は言った。だがそれが果てしなく重い一点であるのは彼もわかっていた。
 その後大毎が誇る筈の強力打線は秋山の好投の前に完全に沈黙してしまう。打ち崩す事は容易ではないことはわかっていた。それだけに試合の展開は大毎にとって苦しいものであった。
「やっぱりあの一回か」
 西本はポツリ、と呟いた。試合は結局一対零で大洋が勝利を収めた。
「何の、まだ一敗だ。まあこれ位は負けないと面白くない」
 永田は余裕たっぷりに言った。彼は自分のチームの戦力に全幅の信頼を置いていた。
 しかし全幅の信頼を置くのと過信、いや慢心は異なるものである。彼のそれは明らかに慢心であった。これが後々彼にとって大きな禍根と
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