第三章
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それが何を意味するかわかっていた。
(来るか)
三原は主審のほうへ歩いていく。そして言った。
「ピッチャー秋山!」
球場をざわめきが起こった。何とこのいきなりのピンチでエース投入だ。
「三原君も妙な事をするな。ここで秋山を投入するとは」
永田は笑った。彼は自分のチームが大洋の誇るエースを打ち崩すと確信していた。
「よし、ここが絶好の好機や!」
西本は言った。そして策を仕掛けてきた。
マウンドで投練習をする秋山。その独特の竜巻の様な動きでボールを土井めがけ投げる。
土井はそれを受けながらチラリ、と見た。彼が見たのは主砲山内ではなかった。
土井は秋山ならば山内を抑えると信じていた。長い間バッテリーを組んできた間柄である。その日の調子は投球練習だけでわかる。今日の秋山の調子ならばいけると思った。
しかしこの世に完璧なものなどない。秋山もそれは同じである。それは土井が一番よく知っていた。
(だからこそ俺がいる)
土井は心の中で思った。そしてその心意気は三原も知っていた。
(さて、と。ここでこの試合は決まるな)
三原はベンチで二人を見ながら心の中で呟いた。向こうのベンチを見れば西本が何やらサインを出している。
(西本君も動くか。だがあの二人に通用するかな)
三原は西本の視線の先を見た。そこには秋山がいる。そう、秋山だ。彼は土井は見ていなかった。
三原が名将ならば西本もまた名将である。だがタイプが違う。三原は選手の能力を引き出し奇計を縦横無尽に使う策士である。西本は選手育成からはじめ正攻法で攻める現場型の人間である。それは西本自身がよくわかっていた。彼は短期で勝負を決するタイプではなかったのだろう。三原とは正反対である。それが禍した。
西本が見破った秋山の弱点、それはその投球フォームにあった。
身体を思いきり捻る為動作が大きい。その為牽制球が苦手だ。二塁にいる柳田にリードを大きく取らせた。
(隙を見せたら走れ)
柳田は西本のサインを確認した。リードが大きくなる。
(よし、それでいい)
西本は柳田が塁を離れたのを見て思った。そうすれば秋山を引っ掻き回せる。そうすれば四番の山内が打ってくれる。秋山の決め球はシュート、しかし山内はそのシュート打ちの名人として知られている。普通の状態なら難しくとも動揺させれば打てる。西本の作戦だった。
土井がサインを出す。三原はそれを見てほくそ笑む。その笑みは西本の目にも入った。
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