第二章
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。しかし永田は相変わらずであった。
彼は完全に舞い上がっていた。連日マスコミの前に立ち彼等が言う大毎の優勢に鷹揚に頷いていた。
オーナー同士の対談が行なわれた。大洋のオーナーは中部謙吉。永田より年上であったが永田は彼をこう呼んだ。
「中部君、中部君」
と。もう完全に勝ったつもりであった。
司会は報知新聞の社長が行なった。派手好きの永田にとって司会も記者クラスでは満足出来なかったのだ。
「中部君とこの大洋ホエールズというチームは実に理想的な素晴らしいチームだ」
彼は言った。褒めているが完全に勝ってつもりでいる。
彼は大洋の優勝を大阪出張中にラジオで聞いたという。
「全国の港、港の鯨か鮭の船かは知らん。しかしその船という船が汽笛を一斉にボーーーーッ、と鳴らしたんだな。大洋漁業という会社の団結の強さを知って感動したなあ」
と言った。話はさらに続いた。
「土井捕手の奥さんが『女房役の女房として光栄に思う』という手記を発表していたなあ。わしはそれを読んで泣いた。一人で会社の屋上に上がって泣いたよ。大洋というチームはようまとまっとると感心した」
最早彼の独壇場であった。ラッパ節全開であった。だがこの時彼は知らなかった。その土井に彼は奈落の底に落ちるきっかけを作られてしまうのだと。
彼の話はある種の人の良さが出ていた。周りはそれを聞いて苦笑していた。これが彼の人間臭さの表れであった。彼は人の情けも心も知っていたのだ。それを知っているからこそ皆笑っていた。
しかしそれが裏目に出る事も多いのが世の中である。仮にも一人で会社を動かしていた男である。それがわからぬ筈はなかった。しかし彼は舞い上がるばかりその事を忘れていた。そして試合は始まろうとしていた。
まずはそれぞれのチームの帽子を被ったオーナー達が花束を手に握手する。双方のチームの選手達が入場する。その先頭には監督がいる。
「・・・・・・・・・」
西本は三原を見た。だが三原は彼を見ない。戦いは始まろうとしていた。
まずは始球式。この時の慣習では開催球場がある市の市長に頼むことになっていた。この場合は川崎球場で行なわれるので始球式は川崎市長。だが永田はそこでも派手にやった。
「わしのチームが出るシリーズや。ここは一国の宰相に投げてもらうか」
この言葉に球界関係者は皆驚いた。そんな事は今まで考えられなかった。またやりやがった、ある球界の大物が顔を顰めたという。話を持ってこられた当時の首相池田隼人も驚いたという。
だが頼まれて嫌と言えば男が廃る。池田は冷徹な切れ者の印象が強いがそうした事は快く引き受ける親分肌も併せ持っていたのだ。彼は喜んでその頼みを受けた。
捕手は金刺川崎市長。永田はきちんと相手の大洋、そして川崎の顔を立てたのだ。
彼はそれを中部と並
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