第十章
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劇的であった。運命的であった。
だがその真実を知る者はいない。僥倖か、運命か。それを知るのは時を司る女神達だけである。そして彼女達もそれを全て制御出来るわけではないのである。人の力はそれ程大きくなる時もあるのだ。
「こんな場面は西本さんやないと出来んわ」
昭和五十四年の秋のことであった。雨の大阪球場で誰かが言った。目の前では広島が日本一の胴上げを行なっていた。
それを黙って見詰める男、西本である。彼はスクイズで再び負けたのだ。
「けれど凄いわ。この場面であんな采配わしには出来ん」
その人はこう行った。
「思えばあの大毎の時もそうやった。西本さんはこういった場面でも生きる。あの人やないとこうした負けでも生きるということは出来へん」
言葉を続けた。
「運命っちゅうやつやろうな。西本さんは負ける運命やったんや。けれどな、それでもあの人が素晴らしい監督であり素晴らしいお人であるのは変わらへん」
近鉄ナインは西本と共にその胴上げを見ている。西本はやはり口をへの字にしている。
「わしは幸せもんや。こんな凄い場面二回も見れたんやからな。こんな筋書き神様でも書けへんで」
彼はそう言うと席を立った。そして酒屋へと繰り出していった。そしてその側にいる子供に言った。
「ぼん、酒はあかんけれど付き合わんか?わしが西本さんの話たっぷり教えたるで」
その子供はそれについて行った。彼が顔見知りだから安心していたこともあった。だがそれ以上にあのへの字口の監督の話を聞きたかったのだ。
それもまた運命であろうか。それとも僥倖であろうか。だが一つだけ言える。この勝負を知ることが出来た人は幸せ者であったと。
僥倖か運命か 完
2004・1・19
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