第一章
[2/3]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
浮かべて言った。
「京都の実家でお袋に会いに行った時こぼしたんじゃ。『わしゃあ何か前世で悪い事しかんかのお。一所懸命やっとるのに野球だけは報われん』とな。甘えてのう」
彼は政界にも顔が利き映画人としては『羅生門』『忠臣蔵』『日蓮と蒙古襲来』等派手な大作で世界的に知られていた。ちなみに彼は熱心な日蓮宗の信者であり身延山に詣でる事が多かった。日活に若きスター石原裕次郎を取られていたが映画監督として市川コン、増村保造、俳優として勝新太郎、長谷川一夫、市川雷蔵、山本富士子と大物を揃え君臨していた。ワンマンであったが力があった。大映は実質的に彼のものであった。
だが今まで野球では今一つパッとしなかった。大映スターズは伸び悩んでいた。
しかし毎日オリオンズと合併し『大毎オリオンズ』になると意気上がった。そして優勝したのだ。
「けどそん時お袋は言うたんや」
彼は得意気に言った。とにかく何でも話してしまう人物であった。
「『けどあんた、一所懸命に人に尽くすことは続けなあかんで』とな」
彼は母親の口真似までして言った。これが永田独特の話術であった。時に激しく、時に人の情に訴える。いかなる場面でも人の心を掴む。そうした話術であった。
「それが今報われたのお」
得意の大弁舌であった。彼は有頂天であった。
それに対して大毎を率いる西本は表情を暗くしていた。
彼は就任一年目にしてチームを優勝させた。早速若き名将と謳われるようになった。強力なチームを率い彼の運気は上昇気流に乗っていると思われた。
だが彼は後にこの時を含めて八回のリーグ優勝を達成した男である。その眼は厳しかった。彼は冷静に自分のチームの状況を見ていた。
オールスター明けに南海に首位を奪われたことがある。後半自慢の打線も下降線にあった。明らかに前半戦飛ばした疲れがあった。シリーズにまでその疲れが残っている怖れがある。
そしてオーナーは舞い上がっている。選手達にまで吹聴して回っている。彼等が慢心すると危険であった。油断すればそこを付け込まれる、それは勝負の世界にあっては常識であった。そして相手のチームの将はそうした事が何よりも得意な人物であった。
対するチームは大洋ホエールズ、将はかって巨人、西鉄を率いていた三原脩である。
三原脩、球史にその名を残す男である。早稲田大学卒業後暫くは株で飯を食っていたと言われる男でありその智略と勘は恐るべきものであった。
巨人においては別所を南海からいまだに語り継がれる強引なやり方で強奪に近い形で獲得した。そして優勝させた。西鉄においては自らスカウトまでして集めた戦力を育て上げ黄金時代を築き上げた。その時の水原茂率いる巨人との日本シリーズ三連戦は今でも最高の勝負として知られている。
このシリーズの最後の戦いで雨を理由に試合を中
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ