第三章 始祖の祈祷書
第三話 溢れゆくもの
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郎が服を着ていないことに気がつき、頬を赤くして顔を逸した。
「あ、あの。そ、そうです。確か東方のロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品とか。“チャ”っていうらしいです」
「茶?」
ふむ、紅茶があるからあってもおかしくないとは思うが、さて、俺の知っているお茶かどうか。
シエスタは士郎の興味を持った様子を見ると、嬉しそうに微笑みティーポットから割れなかった無事なカップに士郎の知るお茶と同じような緑色の液体を注ぎ始める。注ぎ終えると、カップをお盆に乗せ、顔を逸らしながらおずおずと士郎に差し出した。
「ありがとう」
色も香りも同じようだな……さて、それでは味は……。
士郎がゆっくりとした仕草でその緑色の液体を口に含むと、日本でよく飲んだ懐かしい味が口中に広がり、涼やかな香りが鼻腔を通る。
確かにお茶だ……。
士郎は目を閉じると、感慨深げに息をゆっくりと吐き出した。
「あ、あの。どうでしたか?」
士郎のそんな様子を見たシエスタは、恐る恐るといった感じに士郎に感想を求めていく。
「ああ、美味しかった。懐かしい味がした。ありがとうシエスタ」
「懐かしい? もしかしてシロウさんは、東方のご出身なんですか?」
「東方か……まあ、大体そんな感じだな……。そう言えばシエスタは、よく俺がここにいるとわかったな?」
士郎が感心したようにシエスタに尋ねると、シエスタは、微かな星明かりの下でもハッキリとわかるほど顔を真っ赤にしてうつむき、小さく呟くように答えた。
「そ、その……じ、実は、時々ここで、シロウさんがこうやってお湯につかっているのを見ていたもので……」
そう言えば、ここ数日何かの視線を感じていたが……悪意など感じなかったから、どこかの使い魔程度だと思っていたんだが、まさかシエスタだったとは、しかし黙って見ているなんて……ハハッ、まるで……
「覗いていたのか?」
士郎は恥ずかしがっているシエスタの様子を見て、からかうように言うと、シエスタは赤く染まった顔をますます真っ赤にさせ、首が取れてしまうのではないかと心配するほどの勢いで首を振り始めた。
「そっ、そそそそそんなことっ! あっ」
釜の周りは溢れたお湯でぬかるんでいたことから、慌てていたシエスタはそれに足を取られてしまい、前のめりに釜の中に滑り落ちてしまった。
「きゃああああっ! ……え?」
シエスタは硬い釜の内壁に当たるのを覚悟して、ぎゅっと目を閉じて悲鳴を上げると体を固くした。しかし、体にお湯がかかったかと思った瞬間、とんっ! という覚悟していたよりも軽い衝撃に驚き、シエスタは、お湯に濡れた顔をおずおずと上げた。すると、顔を上げたシエスタの目の前に、心配気にシエスタを見つ
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