第三章 始祖の祈祷書
第三話 溢れゆくもの
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王室に伝わる、伝説の書物。国宝のはずだった。どうしてそれを、オスマン氏が持っているのだろう?
「トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。選ばれた巫女は、この“始祖の祈祷書”を手に、式の詔を読み上げる習わしになっておる」
「は、はぁ」
ルイズはそこまで宮中の作法に詳しくなかったので、気のない返事をした。
「そして姫は、その巫女にミス・ヴァリエール。そなたを指名したのじゃ」
「姫さまが?」
「その通りじゃ。巫女は式の前より、この“始祖の祈祷書”を肌身離さず持ち歩き、読みあげる詔を考えねばならぬ」
「ええっ!? 詔はわたしが考えるんですかっ!?」
「そうじゃ、もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……伝統というのは、面倒なものじゃからのう。だがの、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に立会い、詔を読みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」
アンリエッタは幼い頃、共に過ごした自分を式の巫女役に選んでくれたのだ。ルイズは覚悟を決めると、厳しく引き締めた顔をあげた。
「わかりました。謹んで拝命いたします」
ルイズはオスマン氏の手から、“始祖の祈祷書”を受け取った。オスマン氏は目を細めてルイズを見つている。
「快く引き受けてくれるか。よかったよかった。姫も喜ぶじゃろうて」
その日の夕方、士郎は風呂の用意をしていた。トリステイン魔法学院に風呂はある。大理石で出来た、ローマ風呂のような造りであった。プールのように大きく、香水が混じった湯が張られ、天国気分との話だったが、もちろん士郎が入ることは出来なかった。そこは、貴族しか入ることを許されなかったからだ。
学院内で働く平民用の風呂もあるにはあったが、貴族のそれに比べると、かなり見劣りがした。平民用の共同風呂は、掘っ立て小屋のような造りのサウナ風呂である。焼いた石が詰められた暖炉の隣に腰かけ、汗を流し、十分に体が温まると、外に出て水を浴びて体を流すものだ。
最初は特に気にはならなかった。世界中を旅をしている時は、風呂に何日も入ることが出来ないこともよくあり、サウナのような風呂もこれはこれで気持ちがいいものだと思っていたのだが、数日前、料理長が古い大釜を捨てようとするのを見た士郎は、それで五右衛門風呂でも作れないかと思い譲ってもらったのだった。
それからというもの、士郎は稽古が終わると、いつも人があまり来ないヴェストリの広場の隅っこで、釜の下にくべた薪を燃やし、風呂に入るのが日課となった。
日が翳り、二つの月がうっすらと姿を見せてきた頃、湯が沸いたので、士郎は自然と緩む顔を抑
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